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「ただいまー」
午後八時、まだ夏の太陽は、しぶとく地平線を薄明るく照らしている。会社から帰宅したモララーは、子ども二人の嬉しそうなはしゃぎ声を聞く度に、一日の疲れが吹っ飛んでいくのを感じている。今日もそれは同じで、奥からドタバタと、可愛いチビたちが駆けてきた。
「ねーねー、きょうはなにする?」
「怪獣ごっこしよーよ!」
無邪気な子どもを見ていると、今すぐにでも抱きしめたくなる。だが、大事なスーツが汚れるのも嫌なので、気持ちをぐっと堪えて我慢する。
「わかったわかった、じゃあ、パパ着替えて、食事済ませるから、それまで大人しくテレビ見てるんだぞ」
「はあーい」
とても素直に言うことを聞いてくれる我が子に、小さな感動を覚えつつ、ふとポストに目をやると、なにやら封筒が一通届いている。
「ん?」
手に取り確認してみると、それは自分宛だった。
「ギコ……」
差出人の名には、ギコ・ハニャーンと、急いだ感じの字で綴られていた。あの時、ちょっと言い過ぎたと今は反省している。だが、どうしても会う気になれず、謝る機会を逃し続けていた。
もっとも、再び宝探しをしようという気は起こらない。ガキの様に、倉で見つけた古い巻物に×印が書いてあっただけで宝の地図と決め付け、ギコと一緒に宝探しというところまで発展してしまった。あのまま巻物が奪われずに終わっていたら、今頃どうなっていただろうと思うと、馬鹿らしくて恥かしくなってくる。
「あなた、……あなた!」
「……! ん、どうした」
「どうしたじゃないわよ。こっちが訊きたいわ。玄関でいつまでボーっとしてるのよ。洗い物済ませちゃい
たいから、早く着替えて食べてちょうだいよ」
「おお、そうか……わかった、すぐに食べる」
「もう」
「すまん」
ひとしきり食事を済ますと、封筒のことなどすっかり忘れ、子どもとの遊戯に没頭していた。この型に嵌まった世界の中に生きる社会人としては、子どもとの束の間の遊びも大きな娯楽なのだ。
「さあ、もう九時よ。パパと一緒にお風呂入ってきて」
「はーい。お風呂で続きしようよ」
「よし、そうしよう。じゃあ、入ってくる」
「よろしくね」
風呂で散々遊ぶと、いよいよ子どもを寝かしつけた。モララー本人の、ようやく一人きりの休息時間が設けられた。妻は今、風呂に入っているようだ。
野球中継をつけて、しばらく観戦していると、ビールが欲しくなり、冷蔵庫へ取りに行った。そのとき、食卓の上に置いてあった封筒に目が留まった。
「すっかり忘れてたな」
モララーはそれを手に取ると、中の便箋を広げてみた。ひとしきり読むと、丁寧に封筒の中に戻し、呟いた。
「ギコ……あいつまだ、宝を追っかけてるのか……」