ゴジラ対自衛隊 〜映画の中の自衛隊〜

人間の敵=地球の敵に非ず

バトラ――1992年『ゴジラVSモスラ』より


 1992年に公開された『ゴジラVSモスラ』は観客動員数400万人を記録した平成VSシリーズ最大のヒット作である。比較的、過去の『モスラ』や『モスラ対ゴジラ』の設定や性格を引き継いだ作品だったが、その中で特異だったのが新怪獣バトラの存在である。命名はバトルモスラの略で、モスラ同様に、地球の守護者という設定になっている。地球を脅かす文明を滅ぼすために地球自身が生み出した存在とされ、外見を見ても、モスラより戦闘的である。

『ゴジラVSモスラ』が製作された1990年代初頭。1970年代に日本各地で問題となった公害問題は、民間・行政の努力もあり、完全な解決には至っていないにせよ、大きく改善された。しかし、その時期になると、発展途上国と呼ばれる多くの国々も、かつて先進国がたどった道をたどることになる。しかし、余力のあった時代に公害の洗礼を受けた先進国に比べて、貧困国ゆえに設備投資に金を掛けられなかったり、国民の教育レベルの向上が間に合わず人権意識も希薄なため劣悪な状況を放置せざるをえなかったり、もちろん、先進国から、公害が押し付けられている側面もある。そのため、発展途上国の公害は解決のメドがたっていないケースも多い。

 現代の公害――環境問題は、熱帯雨林の減少、大気中の二酸化炭素量・窒素濃度の上昇とそれに起因すると考えられている地球温暖化、酸性雨、オゾン層の減少による紫外線照射量の増大などなど、被害が国境を越えて一国での対応だけでは限界があり、国際的な枠組みの中での取り組みが必要なものもある。それらの問題が表面化していったのが1980年代の終わりごろからだった。経済学でいうところのトレード・オフ(一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないという状態・関係)の考え方を当然の物として発展してきたのが、産業革命以後の世界である。

 人間の発展がなければこれらの問題も起こり得ないし、地球を守る=人間を守る、ではない。それどころか、人間の産業活動こそが、地球を蝕む癌そのもの。ゆえに人間を滅ぼすことこそ正義。そんな悪役の掲げる正義が、あながち誤った歪んだ正義に思えなくなってきたのがこの頃のような気がする。

ゴジラとゴジラの敵たちの時代