ゴジラ対自衛隊 〜映画の中の自衛隊〜

機動警察パトレイバー2 the Movie(1993年)

DATE

1993年劇場公開

監督:押井守  脚本:伊藤和典

声の出演  後藤喜一:大林隆之介  南雲しのぶ:榊原良子  泉野明:冨永みーな  篠原遊馬:古川登志夫  太田功:池水通洋  進士幹泰:二又一成  山崎ひろみ:郷里大輔  荒川茂樹:竹中直人  柘植行人:根津甚八


内容にはネタばれを含んでいます。  解説・感想  ストーリー  映画の中の自衛隊

【解説・感想】

 実写よりも本物らしいとも称された1993年に公開の傑作アニメーション。機動警察パトレイバーの劇場版の第2弾。娯楽映画として名作だった劇場第一作とは趣の異なる映画だが、この映画も間違いなく傑作。自衛隊のクーデターというストーリーを通して、不正義の平和という欺瞞、戦後日本が目をそむけてきたテーマを追求している。

 9.11同時多発テロや地下鉄サリン事件より以前の邦画で、今現実にある危機を取り扱った映画は数えるほどしかない。それをアニメーションで行えたことを驚くべきか、アニメーションというファンタジーにくるんだ上でないと公開できなかったところに驚くべきか。

ページの先頭へ→


【ストーリー】

  1999年の東南アジアの某国。PKO部隊として派遣された陸自レイバー小隊が、ゲリラ部隊と遭遇。発砲許可を求めるも、許可されないまま孤立し、隊長の柘植を残して壊滅する。

 3年が経った2002年冬。かつての特車二課第二小隊の面々は隊長の後藤と山崎を除き、新たな職場でそれぞれの日々を送っていた。そんなある日、横浜ベイブリッジが爆破された。当初は爆破によるものとされたこの事件だったが、後に自衛隊のF-16Jから放たれたミサイルによるものらしいというマスコミ報道が駆け巡る。事件に関する様々な情報が飛び交う中、第一小隊長の南雲と後藤を訪ね、陸幕調査部別室の荒川という人物が第二小隊にやってきた。荒川は、「柘植行人」という人物の捜索を依頼する。横浜ベイブリッジ爆破は、この人物を中心にした一部反乱分子によるものだというのだ。そして、柘植と南雲には浅からぬ因縁があった。

 荒川の真意を測りかねていた後藤だったが、事件は更なる展開を見せる。三沢から爆装したF-16Jが首都圏めがけて飛行しているというのだ。百里航空基地から緊急出動した2機のF-15に、防空司令は撃墜命令を出すが、F-16Jは忽然とレーダー上から消えていた。この事件に対する警察の過剰反応は、自衛隊駐屯地の籠城という事態に発展する。政府は、ここまで事態を悪化させた責任を警察に押し付け、ついに伝家の宝刀を抜いた。自衛隊の治安出動である。

 そんな時、南雲のもとに柘植から電話が来る。南雲は、自分の手で決着をつけるべく指定された場所に向かうが、逃げられてしまう。それは、柘植からの最後通牒だった。雪の降りしきるその日、3機の戦闘ヘリが飛び立った。東京の上空に配置された飛行船からは妨害電波によって自衛隊は通信が途切れ孤立していく。戦闘ヘリの攻撃によって、特車二課は“開戦”初日の数時間で持てる戦力のほぼすべてを失った。

   同じ朝、後藤と南雲は海法警視総監列席の下で緊急招集された警備部の幹部会議に召喚された。南雲の失態をネタに、警察内部の引き締めを図る目的だったが、南雲の抵抗の前に、その目的は失敗しつつあった。そこに特車二課壊滅を知らせる情報が入る。後藤は、事ここに及んで保身と責任転嫁に汲々とする警察幹部に愛想を尽かし、南雲と行動を共にすることを決める。今の後藤に残された最後の戦力――。それは、かつてともに戦った、かつての仲間たちだった。

ページの先頭へ→


【映画の中の自衛隊】

 自衛隊の治安出動が下される場面は、個人的には日本のアニメの中でも印象的な場面。首都に自衛隊車両が進入してくる場面は、よくぞ描いたという感じがした。自衛隊の治安出動がこれだけ描かれた映画も珍しいが、アニメーションということでそこ至る過程の描き方が浅いという感じがする。この時点では、まだ横浜ベイブリッジしか破壊されておらず、“敵”の存在すら明らかになっていない。実際に政府が治安出動の決断を下すには、信じられないほどの人的被害が出た後になるだろう。もしも、治安出動をしたとしても(少なくともこの当時の自衛隊は)、治安出動の訓練は積んでいないはずだ。治安出動というのが、どのような状況で行われるべきもので自衛隊は何をするのか、ということはどこまで議論されているのだろう。それがないままに、ただ条文だけがあるというのは、そっちの方が怖い気がする。

 最初にベイブリッジ爆破の嫌疑をかけられたのがF-16Jという機体である。これは、当時アメリカと合同開発し、2000年から配備が始まったF-2支援戦闘機のことである。F-16がベースになっているがF-16よりも機体が大きくなっており、世界の戦闘機の中でも対艦攻撃能力は世界トップクラスである。ところで、このF-2は、F-1の退役などで日本の次期主力戦闘機の選定の際、純国産を目指していた。今となれば、純国産で戦闘機を作ったとしてどこまで満足いくものになったかはわからないが、日本に主力戦闘機を売り込みたいアメリカの横やりもあって、共同開発という形に落ち着いた。その共同開発の条件も、日本側がすべての技術・情報を提供しなければならないのに対し、アメリカは技術提供に一定の制限を加えることができる不平等なものだったとされる。つまり、日本側はなめられていたわけで、日本の国民の国防への無関心が、ある意味弱腰にならざるを得ない状況を生んでいるといえるのではないか。

ページの先頭へ→