ゴジラ対自衛隊 〜映画の中の自衛隊〜

シン・ゴジラ(2016年)

DATE

2016年劇場公開

総監督・脚本・編集:庵野秀明  監督・特技監督:樋口真嗣  准監督・特技総括:尾上克郎  音楽:鷺巣詩郎

キャスト  矢口蘭堂(内閣官房副長官):長谷川博己  赤坂秀樹(内閣総理大臣補佐官):竹野内豊  カヨコ・アン・パタースン(米国大統領特使)石原さとみ  志村祐介(内閣官房副長官秘書官):高良健吾  泉修一(保守第一党政調副会長):松尾諭  尾頭ヒロミ(環境省自然環境局野生生物課課長補佐):市川実日子  花森麗子(防衛大臣):余貴美子  財前正夫(統合幕僚長):國村隼  里見祐介(農林水産大臣):平泉成  東竜太(内閣官房長官):柄本明  大河内清次(内閣総理大臣):大杉漣  他

内容にはネタばれを含んでいます。  解説・感想  ストーリー  映画の中の自衛隊

【解説・感想】

 2014年のハリウッド版ゴジラの公開と興行的な成功を受けて、2004年の『ゴジラ FINAL WARS』から12年ぶりに、日本版ゴジラがついに復活。脚本・総監督に『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明氏、監督・特技監督に『平成ガメラ3部作』で特技監督を務めた樋口真嗣氏を起用。初代ゴジラへの原点回帰を図りつつ、フルCGによる新たなゴジラの可能性を模索している。

『シン・ゴジラ』 は2011年3月の東日本大震災と、福島第一原発事故に大きな影響を受けて制作された作品である、と感じる。ゴジラによる被災地を前に、思わず手を合わせる矢口の姿は、東日本大震災の被災地の画と重なるし、ゴジラを冷却して停止しようという発想はコントロール不可能となった福島第一原発のそれに重なる。ゴジラとのファーストコンタクトから、最初の被災を経て、東京湾へとゴジラが切れていく一連の政府の対応は、ミスが重なり後手に回っているとはいえ、2時間余りの出来事としては及第点に近い。現実はこううまくいかないだろうというのは、東日本大震災や1995年1月の阪神大震災でも、2016年4月の熊本の地震でも、日本人は経験済みである。そういう、人知を超えたような事態と対面したとき、政権の足を引っ張ろうとする勢力が必ず出てくる。それは野党であったり与党内の対抗勢力であったり、マスコミであったり、某人権団体だったりするわけだが、『シン・ゴジラ』の中ではそういった勢力の存在はほとんど無視されている。わずかに、「ゴジラを守れ」と主張するデモ隊が映し出される程度である。

 この文章を書いている時点では、まだ公開間もないので、興行的な成功につながっているかは判断できないが(追記:公開から3か月半が経過した11月16日には観客動員数551万人、興行収入80億円の大ヒットとなった。平成以降のゴジラシリーズでは最大の観客動員であり、その後も公開が続く、ロングラン上映となった。)、一つの映画作品としては、かなり良質の作品になっていると感じる。自衛隊、在日米軍を蹴散らしながら突き進んでいくゴジラの圧倒的な破壊力。フルCGで描かれた生物的な感情を伺うことのできない硬質な恐怖感。そして、後方で会議に明け暮れる現場と、最前線の現場の乖離が、緊張感を否応なく高めていく。そして、日本に下される核使用によるゴジラ抹殺という非常な決断。世界を巻き込み人間の英知と技術を結集し、核使用の中止とゴジラ抹殺のために一丸となっていく主人公たち。危機管理を描いた社会派サスペンスとして見ても、秀逸な出来だと感じた。

 反面、これは本当に怪獣映画なのか、という感じを覚えたのも確か。ゴジラの暴れまわる場面が少なかったせいだろうか。平成版ゴジラを通ってきた……特に、平成VSシリーズの頃に小学校高学年〜中学生だった管理人としては、ここまで映画的な不親切というかわかりやすさ(娯楽性がないという意味ではなく……)を排除した映画がゴジラファンに受け入れられるのだろうかと不安に感じたのも確か。また、下手に恋愛ドラマ的な要素は組み込まず、ゴジラ出現という未曽有の危機に対してそれぞれの思惑入り乱れる人間ドラマも、これまで以上に濃密な人間ドラマとも言えるかもしれないが、恋愛要素のない人間ドラマなんぞ認めない、ろいうタイプの人には絶対に受け入れられないだろうな、と思う。年代の高いファンには概ね好感を持って迎え入れられているいるようだが、これだけ会議の場面が多い映画が、中学生以下のこれからゴジラのファンになってもらいたい層に受け入れられるか、不安に思った。

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【ストーリー】

 東京湾内羽田沖で無人のままで漂流しているプレジャーボートが発見され、海上保安庁の隊員が調査に向かう。この一見大したことのなさそうな事件が、物語の始まりだった。隊員たちが船内を調査していたその時、東京湾が大きく揺れ、水蒸気が立ち上る。東京湾横断道路・アクアトンネルに亀裂が入り、大量の浸水が発生。政府はこの事態を受けて東京湾を封鎖。事態の究明と収拾のため、情報収集を開始する。閣僚が集まり対応を協議し、原因は海底火山の噴火か大規模熱水噴出孔の出現という結論に落ち着きそうになるが、内閣官房副長官の矢口蘭堂は不明生物の存在の疑いを捨てきれない。ネット上に、それを裏付ける動画が流れていたのだ。

 水蒸気煙が終息し、ほっとなったのもつかの間、テレビで東京湾上に巨大な尻尾が動いている様子が映し出され騒然となる。対処方法の検討が始まるが、巨大生物は今度は河川を遡り始める。環境省課長補佐の尾頭ヒロミが足らしきものの存在を確認するが、このサイズの生物は上陸したら自重に耐え切れず死んでしまう、という学者の見解から 大河内総理大臣は上陸の可能性なしと記者会見で発表してしまう。しかし、その会見の最中、不明生物が上陸、四足歩行の状態で東京を蹂躙していく。

 矢口や赤坂総理大臣補佐官、官房長官らが災害緊急事態の布告を大河内総理に迫る。東京都知事からも自衛隊の治安出動の要請がかかった。しかし、法律は巨大生物の上陸などという事態は想定していない。大河内総理は苦渋の決断で超法規的に災害緊急事態の布告と、それに伴う防衛出動の命令を下した。財前統幕長から回転翼機による駆除作戦が具申され、それを受けて木更津駐屯地からAH-1S攻撃ヘリが飛び立つ。そのころ巨大生物は四足歩行をやめて立ち上がった。前足が小さくなり、二足歩行に適した陸上生命体に近づいていくかのような体形の変化に、矢口は「まるで進化だ」と口にする。攻撃ヘリは機関砲の照準を合わせて命令を待つが、その時、付近に逃げ遅れた避難民の存在が確認される。大河内総理は攻撃を中止させ、不明生物は東京湾へと消えていく。

 巨大生物に蹂躙された東京の惨状は目を覆わんばかりだったが、それがまだ序章に過ぎないことはわかっていた。あれほど巨大な生物のエネルギー源は何か……。東京の 放射線量の軽微な上昇が確認された。それは、巨大生物の移動ルートと重なった。そんな折、米国大統領特使のカヨコ・アン・パタースンが矢口に接触してくる。彼女の依頼は、7日前に日本に来た牧悟郎という大学教授の捜索。エネルギー関連の研究機関に関わっていた牧は、アメリカ合衆国エネルギー省(DOA)の依頼でコードネームGODZILLAの存在を調査していた。GODOZILLAとは彼の故郷の大戸島の伝説の存在“呉爾羅”から取ったものであった。それは、60年前の大量の核廃棄物の海洋投棄によって、太古から生き延びた海洋生物が、核廃棄物を摂取したことで耐性を持ち超生物へと進化した存在だというのが、牧の仮説だった。日本警察の捜査の結果、牧は発見されなかったが、最後の足取りが確認された。東京湾上のプレジャーボートの持ち主が牧であり、彼の姿はなかったが、彼の研究成果の一部と、「私は好きにした。君たちも好きにしろ」という遺書とも警告ともとれる一文が残されていた。

 巨大生物はゴジラと呼称されることが決まる。ゴジラは体内に生体原子炉が存在していると推定され、その生じた熱は尾びれなどを通じて外部へと放出されるがそれはあくまでも補助に過ぎず、血液流をメインの冷却機能としている可能性が高い。ならば、血流を止めれば体内冷却のシステムも停止するはず。血液凝固剤の経口摂取を主とする矢口プランが立案された。

 ゴジラが相模湾に出現。その形状は、先日東京を蹂躙した時よりも禍々しく進化しており、そのサイズも倍化していた。鎌倉市街を抜けたゴジラはさらに東京を目指して進んでくる。このままでは最低3時間で都内に再侵入を許してしまう。政府は多摩川を防衛ラインと定めた「タバ作戦」を決行。自衛隊は、木更津駐屯地のAH-1S攻撃ヘリ、立川駐屯地のAH-64Dを武蔵小杉駅上空で待機させ、多摩川河川敷に機甲科・特科部隊の10式戦車や99式自走155oりゅう弾砲などが集結する。さらに三沢基地からもF-2戦闘機が発進し、ゴジラを待ち構える。そして、ゴジラとの直接対決が始まった。AH-1S、AH-64Dの機関砲の掃射はゴジラの外皮の前に全く歯が立たず、大河内総理は武器の無制限使用を許可する。攻撃ヘリの誘導弾が次々命中するが、ゴジラは全く怯まない。地上部隊も次々攻撃を仕掛けるが、ゴジラへの効果は確認できない。さらにF-2からJDAM(統合直接攻撃弾)が発射された。爆炎に包まれるゴジラ。しかし、ゴジラの前身は止まらず、前進基地や地上部隊は戦闘不能に追いやられた。多摩川を超えたゴジラは東京都内に侵入し、「タバ作戦」は失敗に終わる。

 侵攻するゴジラの前に、日米安保条約に基づく協力要請を在日米軍に打診。米軍がそれに応じて爆撃を決めるがその範囲は予想以上に広い。都民を急ぎ非難させるとともに、官邸も危険な状況にあるため、閣僚たちも一時官邸を離れることに。閣僚たちはヘリ、矢口たちは車で、それぞれ非難することに。そして、米軍の攻撃が始まる。B-2爆撃機3機が発進する。ゴジラに向けて投下される地中貫通爆弾(バンカーバスター)は、ゴジラの外皮をも貫き、多大なダメージをゴジラに与える。ついにゴジラが死ぬ――しかし、それは一時の幻想にすぎなかった。ゴジラの背びれが異様な光を放つ。そして、口から炎が吐き出された。それはやがて収束していき、熱線へと変わっていった。さらに、投下されるバンカーバスターは、ゴジラが広範囲に放つレーザーのような熱線によって次々と撃墜され、さらにB-2も次々と撃ち落される。ゴジラが放ち続ける熱線は、官庁街を火の海にし、官邸から脱出しようとした閣僚たちを乗せたヘリにも直撃し、日本は指導者たちのほとんどを失った。

 立川の広域防災基地に官邸機能が移され、外遊中で難を逃れた里見農林水産大臣が代理で総理につくが、派閥の持ち回りで大臣になった人物だけに矢口の部下たちは不安を隠せない。矢口自身、焦りから部下を怒鳴りつけてしまう。アメリカ主導の多国籍軍によるゴジラ処分が決まり、日本政府もそれを受け入れる。それは、日本で3度目の核兵器が使用されることだった。人道的な配慮から、都民、そして千葉、神奈川からの民間人の避難が優先されることになった。その時ゴジラはエネルギーを使い果たし活動を止めていた。再度行動を開始するまでのタイムリミットは360時間と推定された。それが終われば、熱核攻撃が決行される。日本を核から守るためには、矢口プランを完成させ、ゴジラを無力化する方法を確立しなければならない。しかし、そこには未だ多くの問題が横たわる。矢口たちは、それらの困難を牧の残した研究データの解析や各国に協力を得て排除しながら、矢口プランを確立させる。カヨコらの協力を得て米国との共同での「ヤシオリ作戦」へとこぎつける。日本の命運をかけ、最後の戦いが幕を開ける。

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【映画の中の自衛隊】

 徹底したリアリティを掲げ、緻密に練り上げた作品だけあって、とてもリアルに描かれている。念のために言っておくと、この場合のリアルというのは「本物そっくり」という意味ではなく、「本物そっくりのように思える」という意味。自衛隊のみならず、世界のどの国でも、怪獣と戦った軍隊はない。求められても返答のしようのないこともあっただろう。また、取材は許可されても、本物そっくりには作らないようにと念を押された機関もあったという。見ていて興ざめしてしまうような架空兵器の存在は一切排除し、様々なアプローチを試みた末に出来上がった今作は、「ゴジラ以外は全て事実」と豪語するに相応しいリアルな作品となっている。

 そういったリアルさがあるからこそ、タバ作戦における一連のやり取りも、リアルにありそうな気がする。AH-1S攻撃ヘリ(コブラ)と、AH-64D攻撃ヘリ(アパッチ)がそれぞれ機関砲の掃射を行い、ゴジラの外皮に影響がないと判断されると誘導弾使用の可否を指揮官に問う。その問いは幾つかの過程を経て官邸へと届けられ、大河内総理は武器の無制限使用の許可を下す。政治が戦況のすべてを支配しようと試みるほど傲慢でもなく、政治が現場に責任を押し付けるほどに無責任でもない。ある種の儀式のようなやり取り。それを合図に、攻撃ヘリ、そして陸上自衛隊の10式戦車・99式自走155mm榴弾砲・M270 MLRS(自走多連ロケット砲)などが一斉に攻撃を加え、さらに青森県の三沢基地からF-2が飛来しJDAM(精密誘導弾)を叩き込む。対ゴジラ戦に普通科(歩兵)の出番はないだろうから、機甲科・特科部隊の独壇場だろう。ちなみに、首都圏防空の要である茨城県の百里基地には302飛行隊と306飛行隊が配備されており、それぞれF-4EJ改とF-15J/DJが運用されているがこれらは対地攻撃能力ない制空戦闘機であり、航空自衛隊が使用している戦闘機で対地攻撃能力があるのは現在はF-2のみである。

『シン・ゴジラ』では在日米軍の存在が大きく取り上げられている。日本の安全保障を考えたとき、アメリカとの関係は切っても切り離せない。なのに、ゴジラに限らず、日本の安全保障を取り上げた作品の中でも、在日米軍の存在はどこかタブーなところがあったように思う。特に、ゴジラ(に限らずいわゆる怪獣という存在は)国際的紛争の端緒になるような事案でもないので、在日米軍が積極的に参戦するような状況は考えづらいと思う。アメリカは日米安全保障条約で結ばれた唯一の同盟国である。しかし、日本の用心棒ではない。日本の危機に対してまず日本人が戦って、初めてアメリカは手を差し伸べることになるだろう。それは、日本を取り巻く諸問題全てに対して同様だろうと思う。米軍の兵器では、3機のB-2爆撃機スピリットと使用武器として地中貫通型爆弾(バンカーバスター)MOPUが登場している。B-2は全翼のステルス爆撃機であり、1機20億ドル以上と、世界で最も高価な航空機としてギネスブックにも掲載されている、米軍の最新鋭兵器である。また、B-2からゴジラに投下された地中貫通型爆弾(バンカーバスター)MOPUはその名のとおり、地下に隠れた敵を殲滅するための爆弾であり、地中深くに届くように貫通力を高めた設計をされた爆弾である。一般的にバンカーバスターというと、GBU-28(総重量4,700ポンド(2,132kg)、炸薬量630ポンド(約28kg))のことをさすことが多いが、MOPはそれより大きい爆弾である。ただし、貫通力はGBU-28のほうが優れているとされている。ちなみに、バンカーバスターは自衛隊は保有していない。

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