ゴジラ対自衛隊 〜映画の中の自衛隊〜

ミッドナイトイーグル(2007年)

DATE

2007年劇場公開

監督:  成島出  脚本:   長谷川康夫  飯田健三郎  音楽:小林武史

キャスト   西崎優二:大沢たかお  有沢慶子:竹内結子  落合信一郎:玉木宏  佐伯昭彦:吉田栄作  冬木利光:袴田吉彦  青木誠:坂本爽  チヘ:金子さやか  平田俊夫:波岡一喜  西崎優:佐原弘起   斉藤健介:大森南朋  宮田忠夫:石黒賢  渡良瀬隆文:藤竜也

興行収入7.8億円

内容にはネタばれを含んでいます。  解説・感想  ストーリー  映画の中の自衛隊

【解説・感想】

 高嶋哲夫著作の同名小説を映画化。雪山を舞台にしたサスペンス・アクション大作。山岳アクションで、日本へのテロ、国防といった内容の映画になっている。防衛省が省に昇格して初めて映画撮影に協力したタイトルである。

 しかし、この手の秀逸な小説作品の映画化が、こんなに陳腐なものになってしまうのはなぜだろう……。ひとつは、大まかな部分ばかりに力を入れられて、細部に手が回っていない印象を受けるからではないだろうか……と思う。この映画でも、その感じが強い。とにかく“戦場”と化した雪山に見えない、という感じがした。他にも、突っ込みたいところはいろいろあったけれど……一番気になったのは、戦場カメラマン西崎と、ジャーナリスト落合の二人の行動だろうか。自衛隊を全滅させた工作員が民間人二人を簡単に逃し、銃撃戦やらかしている最中に明々と灯りをつけて。そのテントは今にも吹き飛ばされろうな薄っぺらい。雪が降り積もった雪原を後先考えずに走り出し。とにかく、危険な雪山、戦場にいるように見えない。最初から最後までだるみっぱなしというか緊張感がないというか……というのが印象だった。

 それでも、そのまま終わっていれば、国家安全保障の現実を突きつけた問題作、と思えたかもしれないが……。ラストで、西崎は、自分たちを工作員ごとナバーム弾で焼き殺してくれと政府、自衛隊の幹部たちに呼びかける。そして、それは実行に移される。しかし、それまでが長い。さあ、ここから泣き所ですよ! とやられているようで、不満に感じた。

 しかし、こういう映画は20年、30年前ならどういった扱いを受けていたのだろう。こんなこと起こるはずがない、と一笑に付されただろうか? 北朝鮮によって大勢の日本人が拉致されていたというのに。今なら、こういうことは起こっても不思議はない、という捉え方をされるだろうか。それを右傾化という人もいるかもしれない。しかし、誰だって、平和は尊く、何よりも得難く、何よりも護らなければならないものと考えるだろうが、それを何をしなくても得られるものと考えるか、戦わないと守れないものと考えるかは、まったく異なるものだろう。

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【ストーリー】

 元戦場カメラマンの西崎優二は、取材中に起きた事件をきっかけにカメラマンとしての意欲を失い、家族からも背を向け、山に籠り星の写真を撮影して過ごす日々だった。義妹の有沢慶子は、姉の志津子の気持ちもわからず、姉の死後もかつての意欲を取り戻せない西崎を許せず、西崎と志津子の息子、優を強引に引き取り自分が育てると主張していた。

 西崎が優のためにと差し出した夜空の写真を冷ややかに受け取った慶子だったが、かつては戦場カメラマンの西崎を尊敬しジャーナリストとして活躍していた。慶子は、どういうわけか緊張の度合いを増して動き出した官邸の様子や在日米軍横田基地で起こったテロの動き、町医者からのタレコミの関連性を調べるための取材を編集長の宮田から言い渡される。慶子は、たまたま見かけた自衛隊車両の物々しい動きに不安を感じていた。

 それから少し遡る。国籍不明機をレーダーに捉えた航空自衛隊小松航空基地から2機のF-15が緊急発進した。不明機はみるみる高度を下げていき南アルプスに墜落した。F-15のパイロットは帰投を命じられ、南アルプスは警察、自衛隊によって厳戒態勢が知られた。その様子を、南アルプスに籠っていた西崎も見ることになった。慶子同様、西崎に憧れてジャーナリストになった高校の山岳部の後輩・落合信一郎は、自衛隊の緊急出動を登山者の通報から知り、防衛省に照会をかけるが、練習機の墜落という回答を受ける。落合は西崎をつれて、南アルプスで何が起こったか知るために山に入る。そこで見たのは白い戦闘服に身を包んだ自衛隊の姿だった。

 そのころ、慶子も、負傷した工作員と遭遇する。言葉は通じないながらも何とかコミュニケーションを取ろうとする慶子だったが、宮田は取材の中止を命じる。それを拒否して取材を進めようとした慶子の前にスーツ姿の男たちが現れた。身の危険を感じて逃げ出した慶子だったが、慶子の前に現れたのは、警察の公安部員たちだった。公安部員たちに連れられた慶子達は、口止めのために総理以下、危機管理閣僚と自衛隊幹部が居並ぶ対策本部へと連れて行かれる。

 南アルプスでは、国籍不明の工作員に銃撃を受けた西崎は、落合に下山を進めるが、功名心にはやる落合はこれを受け入れない。結局2人は分かれることになったが、落合の身を案じる西崎は引き返し、落合が工作員の銃撃にさらされ、さらに銃撃による雪崩に巻き込まれるところをすんでのところで救出する。落合の功名心の理由は、松本支部に飛ばされた経緯と絡んでいた。落合の心情を察した西崎は同行することを決めるが、さらに工作員と自衛隊の小隊の戦闘に遭遇し、工作員と小隊がほぼ全滅する様を目撃する。さすがに恐怖を感じる2人だったが、自衛隊の小隊の生き残りである佐伯一尉と接触する。この事態に民間人を巻き込みたくなかった佐伯だったが、2人の決意は固まっていた。墜落したのは在日米軍のステルス爆撃機『ミッドナイト・イーグル』。しかも、その中には核が搭載されている。

 墜落したミッドナイト・イーグルに到着した3人は、何とか核爆弾を確保し、対策本部に連絡を入れる。しかし、ほっとしたのもつかの間、数十人の工作員たちが包囲し、第2ラウンドが始まろうとしていた。悪天候のために増援はたどり着けない。総理以下……そして、慶子、優が見守る中、西崎は悲痛な決断を伝えた。

 

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【映画の中の自衛隊】

 佐伯一尉を演じる吉田栄作が映画を何とが締めたものにしてくれている、という印象を受ける。軍事ものとなると、どうしても疑問に感じる部分はいろいろ出てしまうが、命がけの任務に挑む自衛官の姿をしっかりと演じてくれていたと思う。トレンディドラマの俳優だったころと比べ、違った意味ですごくいい俳優になったなと思う。

 この映画にも撮影協力をしているる第12旅団隷下の第13普通科連隊(長野県松本市に駐屯)は、かつては陸上自衛隊唯一の山岳レンジャー訓練を行うなど、精強山岳部隊として知られている。とはいえ、陸上自衛隊には、常設の山岳レンジャー部隊というのは存在していないようだ。

 日本の軍事ものの映画では、ゴジラやガメラも含めて“在日米軍”というのはある意味タブーになっている感じがある。原作では、日米合同捜索だったのに、この映画では自国の最新鋭爆撃機が落とされているのに、全くアクションが見えないのは疑問。スクリーンにアメリカ軍人が出るのを、過度に嫌うあまり、映画に酷く矛盾を感じるものにしてしまっている気がする。

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