「祝祷として用いられる第二コリント13:13について」

1998/10/09 執筆


  先回の局長会においては、宣教研究委員会での研究・論議の成果、また、提案を受けて、祝祷にUコリント13:13のことばを用いるに際して、受按者と非受按者とで「あなたがたすべて、、、」と「わたしたちすべて、、、」の使い分けをすることが妥当であるとされました。さて、プロテスタント教会の礼拝において、祝祷にために最も広く用いられているUコリント 13:13 について、祝祷の本来の表現は「私たちすべて」ではなく「『あなたがたすべて』とともにありますように」であると言われているにも拘わらず、なぜ、私(たち)が按手礼を受けている立場であっても「私たちすべて、、、」を用いるかを考えてみたいと思います。
  「私たちすべて」ということばとの置き換えは、司式者が礼拝者のひとりとしての意識をもって、司式者であると同時に礼拝者とでもあるという、いわばひとり二役を演じているからと説明されています。確かにその要素を否めません。しかし、そうすることは厳密に言って祝祷の本来の形ではないとされています。祝祷は神が民に与える祝福であって、司式者は神の側にたって神に代わって民を祝福するのが本来の祝祷であるという理由・理解からです。
  さて、このUコリント 13:13を用いて祝祷を捧げる時に「あなたがたすべて」に代えて、敢えて「私たちすべて」という表現を用いる更に重要な神学的理由を考察する必要がありますが、その神学的理由とは、このUコリント13:13の初めのことば「主イエス・キリスト」という表現に掛かっています。省略されていますが、「主イエス・キリスト」との用語は、明らかにこの書簡全巻、また、新約聖書全体を通して、「『私たちの』主イエス・キリスト」の意味であることは論じるまでもありません(Uコリント1:2、3、14、8:9、Tコリント1:2、3、7、8、9、ヘブル13:20、ユダ24〜25他)。聖書には「あなたがたの主イエス・キリスト」という表現はまず見当たりません。「あなたがたすべてとともに」という表現における二人称の使用は、これが書簡であって、手紙の執筆者、そして、手紙の受取人という彼我の関係が存在しているからであることも心に留めておくと良いでしょう。
  これを祝祷における司式者と会衆とに適応して、祝祷における彼我の関係とすることは大きな問題を生起します。すなわち、祝福する司式者は会衆の側にあるのではなく神の側に立って会衆を祝福するものと言われますが、神の、またキリストの側に立つとき「『あなたがたの』主イエス・キリスト」との表現は奇妙なものになります。「主イエス・キリスト」との表現は「私たちの」とのことばを明記しようと、暗に意味しようと、それはキリストを主と告白する信仰者のことばであって、その意味で、このUコリント 13:13は会衆と一体となった時にのみ、口にすることのできる信仰告白を含んだ内容だからです。ここにこそ、このUコリント13:13を用いて祝祷のことばとするとき、私たちが「あなたがたすべて」という表現を、敢えて「私たちすべて」に置き換えて表現する最大の理由があります。このUコリント13:13の冒頭の「(私たちの)主イエス・キリストの恵み」という表現、否、「私たちの主イエス・キリスト」との信仰告白が、それを必然的に要求するのです。
  そして、このことは祝祷が主の立場から会衆を祝福する司式者と、それを受ける会衆という彼我の関係においてなされるのが本来の形であるという説明に疑問を投げ掛けることになります。少なくともUコリント13:13の聖句、また、形式を用いての祝祷は、司式者と会衆とがキリスト・イエスを「主」として同じく告白する者という一体の関係にあって、司式者であると同時に礼拝者として、共に告白する主イエス・キリストの祝福を祈り求めるものだからです。按手礼の有無に関わらず、誰にとっても「私たちとともに、、、」という表現を用いる方がより相応しい祝祷の形と理解されますが、如何でしょうか。
  再考の材料として書き記しました。吟味をお願いします。

■  神学小論文−そのW:伝道職の権威:「どこから、あなたはその権威を得ましたか」

■  神学小論文−そのX:「キリストの使節としての務めに任じられて」

■  神学小論文−そのY:「教職と信徒」

■  神学小論文−そのZ:「私たちの教会―教会論:その制度面から」

■  神学小論文−その[:「再び、教会の権威を巡って」

■  神学小論文−その\:「監督政体の理解」

■  神学小論文−その]:「監督政体について」

■  神学小論文−その]T:「祝祷について」

.                                   聖書の写本:日本聖書協会・前総主事の佐藤氏の提供


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