大前研一「2008年の見通し」 

年の瀬にあたり2007年を振り返ってみると大きな特長があることが分かる。世界経済におけるアメリカの勢力の衰退である。ドルの実質実効レートは少なくとも第二次大戦後最低レベルになったし、日本円を除く全ての先進国通貨に対して弱くなっている。経済成長率もBRICsはじめ東ヨーロッパやトルコ、中南米などに比べて低く、最早世界経済の牽引車とは呼べなくなっている。

 今年の8月に発覚したサブプライム問題では世界中にこの怪しげな商品をばらまいていたことが分かり、いまや世界は「アメリカ発」の金融危機に怯える日々である。

2008年はちょうど10年前と似た年となろう。1997年の6月に発生したタイバーツの暴落から東南アジアに経済危機が伝播した。 

12月の暮れになって韓国もこの影響に巻き込まれた。この時の特長は、知らない間に韓国の財閥に貸し込んでいたのはアメリカの銀行だった、ということである。 

アメリカはクリスマス返上で対策を練り、結局IMFにアメリカの借金を肩代わりさせる、という妙案を考え出した。当時大統領に就任したばかりの金大中氏は国家の一大事、とばかりに国民に貢献を呼びかけた。今から考えると不思議な感じもするが、驚くべき多くの韓国国民は自宅に大事にしまってあった金などの宝飾品を次々に差しだした。そう。ちょうど10年前のことであり、歴史は繰り返される。

今度はシティーバンクなどアメリカの銀行を救うのはアブダビ投資庁などのアラブ系のSWF(国家ファンド)である。

もちろんアメリカ国民は韓国の国民とは違って、金銀財宝を差し出すことなどしない。 

自分たちの資産をいち早くユーロにシフトし、ドル暴落に貢献している。

アメリカ政府はよその國に対してはかなり強硬な態度を取るが、自国民に対しては強いことを言わない。

日本のバブル崩壊に伴う危機に際しては米国債を売る、という手もあったが、
日本政府はツケを全て日本国民に持たせて「日本発」の金融危機が世界に伝播するのを防いだ。 納税者と預金者が支払った損失は総計300兆円である。

今回のサブプライムは総計30兆円くらいであるから、アメリカの納税者が負担できない額ではない。イラクの戦費を少し削れば十分に飲み込める額である。

しかしロンを借りた低所得者だけを保護すれば、一生懸命真面目にローンの返済をしているプライム部分の人たちに対して不公平になる、などの政治的課題が残る。結局アメリカはこの問題を世界の問題として置き換えてしまうだろう。

2008年は出だしから困難な綱渡り的経済運営を各国ともに強いられることになる。 

アメリカの個人消費が大きく低迷すれば中国が影響を受け、今のバブル経済も終焉を迎えることになる。 

中国特需で蘇った日本の景気も打撃を受けるだろうし、韓国とて無関係ではいられない。

中国は絶好調の中で北京オリンピックを迎えたかったに違いないが、年初の短期的見通しは明るくない。

しかし長い目で見れば世界経済は発展する。その理由は、いま世界には6000兆円を超えるホームレスマネーがあるからである。先進国の年金、保険、貯蓄などに加えてアラブやロシア、中国の余剰資金が国境を越えて投資機会を狙っているからである。この金はバブルを各国でつくり出している張本人であるが、同時に投機資金であるから不動産、商品(コモディティ)、株式、債券などが底値になれば一斉に買いに走る。つまり今の世界では市場を無理して買い支えないで、落ちるところまで早く落としてしまえば、買いがすぐに入ってくる、ということである。

韓国の新大統領は自国経済がどういう状態になっても、国民の税金や金銀等の財産を使わないこと。
 

バブルに踊った紳士達が市場から撤退すればいいのである。

どんな経済状態になっても市場原理を貫くことができれば、韓国も10年前の苦い経験から得た教訓を生かすことになる。
 
               
                                   大前研一・ビジネスブレークスル大学院大学学長