安岡正篤先生「一日一言」  その16

平成26年1月

元旦 国歌 国家についても同様である。無理に否定し反感を挑発するように力んでおる者が多い。「君が代」とは人民我々が主権者である今日、けしからん封建的観念であるとか、「千代に八千代にさざれ石の巌となりて」などは全く以て非科学的だなどとまで評する者もおるが、文芸というものを全く以てわからぬ者のたわ言である。国歌は何も国民に国君一人を頌させるものではなくて、国民すべてが同慶同賀する歌である。だから新作をせよと言っても、こんなに人心のばらばらな時代に、名作の出ようなわけはない。名作がいくら出来ても名歌にはならないのである。名人がいくらおっても名相にはなれないのも同様である。(醒睡記)
2日 国旗 可愛い子には旅をさせよと言う諺がある。外国を長旅したことのある人々は、例外なく日の丸の旗を喜ばしがる。外国を旅して初めて自国というものを懐かしく有り難いことがわかるからである。自国内に住みなれて、つまらぬ事にむしゃくしゃしている者には、愛国も愛家も愛人もなくなり易い。それはともかく、青空に翩翻としてひらめく日の丸の旗は、それ自体何と快いものであろう。あれを愛国主義の象徴とか、戦争の残骸のように忌み嫌うなどは、言うまでもなく正気ではない。多分に異常心理である。中には、そう教えられて無理にそうきめこんでおるイデオロギー患者も意外に多い。
3日 愛する国土・
自然のマークが国旗
人間の心の中には価値手識というもの、理性や情操というものがあって、心が純真で、害われていんいほど、絶対者・神・偉大なるもの・尊き者に憧憬し、帰依し、之を信奉しようとする。これは広義の宗教的本能です。始めから王というものを持たなかったアメリカ国民も、国旗という神聖なものを持っています。その国旗に対する誓いの儀式は厳粛です。
4日 国家への誓い 彼らは誓言します。

I pledge allegiance to the flag of the United State of  America and the Republic for which it stands :one and indiviible with justiceand liberty for all.

「私はアメリカ合衆国の国旗と、それが表示する共和国、全国民に正義と自由を与うる、唯一不可分のその共和国に忠誠を誓う」と。

5日 恥ずかしい戦後日本人 国旗なんか何が神聖だ。そんなものは布地にマークを入れただけりものではないか。アメリカの国家が果たして全国民に正義と自由とを与えているか。そんなことはみな嘘だ。そんなものに忠誠を誓うバカがあるか、と尤もらしく議論したり、学者ぶつたり文章を書いたりしてアメリカの良識ある人々が承知するでしょうか。             (日本の運命)
6日 他人本願はダメ 我々が覚らねばならぬことは、自分というものをお留守にして、ただ他力本願正しい意味の他力本願ではなくて、俗に言う人の褌で相撲をとると言う他人本願、自分は何もしないで外に求めるという態度ではダメであります。
7日 一隅 国民の心ある者が斉しく起って、まずそれぞれが己みずからに反って、せめて自分の分野、これを一隅という、これは伝教大師の言葉です。当時の知識仏教、理論仏教に対して大師が叡山に入って言われた「一隅を照らす」という言葉です。
8日 一灯照隅行 自分が座っている、存在しているその場所、片隅でも自分というもので明るくする。私はこれを「一灯照隅行」、自分が一つの灯になって一隅を照らす行と申しまして、私どもの師友会同人の生活、行動の指針、一原則に致しておるのでありますが、心ある者がこの問題を自分の問題にして、自分が自分の一隅を照らしてゆこうというのであります。それぞれ発奮して、大きいことを望まんでいい、各々一隅を照らす、自分が存在する、活動する分野の、かなわち一隅において、自分が灯明になる。一隅を照らす、そうすると、千人千灯、万人万灯になる。一隅を照らす人が万人出れば、よく国を照らすに至る。そこで、一灯照隅、万灯照国の行を提唱しているのであります。            (講演集)
9日 徳義の世界
その一
1.   我々は深き伝統的根底に立って、堅実にして日進の成長繁栄を期する。
2.   我々は悪を除くには急進的で、善に対しては保守的でなければならぬ。
3.   我々は我々の本質を通じて徳義の世界を実現せねばならぬ。
4.   物質と経済とは、いかに必要であっても、決して第一義ではない。高い精神と美しい感情とが一切を解決する。
10日 徳義の世界
その二
1.   国家の繁栄と偉大とは、その領土や資源や生産よりも、その能力・精神・風俗に依ることを信ずる。
2.   我々は世界の平和・人類の幸福を念願する。それゆえに我々は益々日本民族の徳と力とを反省し培養することを念願する。
3.   思想は常に生の進歩でなければならぬ。生の最高の姿は正義である。正義の為に死ぬことも生の不滅である。 
ここまでで一応、終止符を打つ。有難うございました。