110日 人生航路は

 親切に我々を救うる者は即ち先覚であり、書籍である。先覚は我々に先んじて荊棘(けいきょく)多き心の路を開いて行った人である。我々は彼によって活きた人生の体験にふれることができる。書籍は先人が(こう)(こん)のために迷妄(めいもう)を去って自己の真性を発揮する所以(ゆえん)を教える物であ。その意は飢えたる者に食を与え、病める者に薬を与えた、暗き者に燈を与え、跛者(はしゃ)に杖を与えるにある。我々が書を読むにあたっては必然にこの飢えたる者・病める者・暗に迷える者、跛行(はこう)せる者のごとく、救いを求める切なる心がなければならぬ。 

王陽明研究