◎視点/ 徳永圀典「銀行は産業育成の意欲を」* 日本海新聞 私の視点 寄稿 平成27年1月26日

 昨年暮れ、県融資の某企業が倒産した。融資から少し日が浅過ぎると感じた。

 メガバンクの住友とか三菱は年間1兆円近い純益を計上するようになったが、想起すれば1992年から 2003年までの10年間、日本の銀行部門は97兆円の損失を償却した。

 産業がバブル崩壊等で倒産するとメガバンクの融資は巨額の不良債権と化すが、銀行の償却により産業界 の健全性を保つという社会的機能を果たす。

 近年、広く日本の銀行部門を観察すると、融資審査基準がマニュアル的になっているやに見える。人間的 、肉眼的、洞察的、先見的要素が欠落している。萎縮があるのだ。

 松下幸之助は中小企業時代、住友の融資を多として成長した。世界的企業のブリジストンも地下足袋から 始まった。人物と企業成長要素を見抜き、銀行家と言うにふさわしい人物が多くいたのである。

 今、日本の上場企業は70兆円のキャッシュを保有すると言われる。成熟した社会となり、物はあふれ、 世界を見渡しても日進月歩で進化している。

 冒頭の県融資についても、銀行家に胆識があり、ベンチャー精神に徹し、産業育成の使命が高ければ、公 的助成ではなく民間の出番のものではなかったのか。ベンチャーマインドの助長という、戦後早々の銀行 家のような意欲、見識、胆識は喪失してしまったのか。

 企業はキャッシュをため込むだけになったのか。無名の企業を発掘し支援する意欲が今こそ日本には必要 な第2戦後の時代と思えるのだが。

               徳永圀典