【年のはじめに】長期安定政権で国難打破を

産経2013.1.1論説委員長・中静敬一郎

 新年を日本再生の元年にしたい。その槌音(つちおと)は聞こえている。憲法改正を掲げる政治勢力が国政の担い手となり、国のありようを正す動きが顕在化してきた。

 戦後日本が内外に問題を抱えて、身動きできなくなっている。そのことへの国民の言い知れぬ不安が、国家機能の正常化を促している。現行憲法前文の「諸国民の公正と信義」に信頼して、「われらの安全と生存を保持」することの破綻が、目の前に現出していることも拍車をかけている。

戦後日本の不備正せ

 中国と北朝鮮が明らかに一線を越えた。昨年12月、中国機が尖閣諸島沖の日本領空を初めて侵犯した。同時に領海へも侵入した。日本の施政権下にある尖閣の現状を覆し、やがて力ずくの侵略を、という野心の表明である。

 相前後して北は射程1万キロ以上とみられる長距離弾道ミサイルを発射し、ロサンゼルスなど米西海岸を射程内に収めた。米本土に向かうミサイルを自衛隊が迎撃するための集団的自衛権の解釈見直しは待ったなしの課題である。

 それだけではない。諸外国は主権を侵害する不法行為に対し、部隊を自衛する「平時の自衛権」とされる排除行動をとれる。だが、日本は自衛権の行使を「他国による計画的、組織的な武力攻撃を受けたとき」などと限定しており、平時の自衛権を認めていない。憲法第9条による「武力行使と一体化しない」とする解釈があるためだ。国の守りに「大穴」が開いていることは顧みられなかった。

 戦後日本がこうした不備を放置してきたことが、逆につけこまれ、抑止できない事態に追い込まれている。

 日本がデフレに苦しみ、さらに原発再稼働がほとんど認められずに国力が奪われる中、東アジアの安全保障環境は様変わりした。中朝と日米韓が厳しく対峙(たいじ))する構図だ。ロシアも微妙に絡む。「独裁中国」を中心とする勢力が覇権を求め、それに「民主主義と自由」を守る勢力が立ちはだかる。安倍晋三首相と(ぱく)槿()()次期韓国大統領の登場により、後者の勢力は(もろ)さを克服する好機を迎えている。

 日本人が覚悟を決める時だ。日米同盟を堅固にして抑止力を強める。そして心を一つに中国の圧力をはね返すことに、である。

 中国の威圧と挑発は今に始まったわけではない。127年前の明治19(1886)年、清国は当時最新鋭の大型戦艦「定遠(ていえん)」「(ちん)(えん)」などを親善の名目で日本に派遣し、威嚇した。5年後も同様な軍事的圧力を加えた。脅せば屈服すると見たのだろうが、明治の日本人は逆に奮い立ち、海軍力整備に向かった。

 問題は、帝国議会で政府と野党が激しい政争を繰り広げていたことだ。その混乱ぶりは、清国に日本弱しとの印象を与えるほどだった。しかし、明治天皇の詔書が発せられるや、内紛は一日にしてやみ、議会は2日間で臨時軍事費を満場一致で可決した。日本人の団結心と愛国心を見誤った清国は日清戦争に敗れて瓦解(がかい)した。

甘さと弛緩は命取り

 このように、日本人が危機に際して底力を発揮した例は枚挙にいとまがない。一昨年の東日本大震災でも日本人が冷静かつ忍耐強く、まとまって対処したことを世界は称賛した。英BBC放送などは昨年5月、世界22カ国で実施した世論調査を発表したが、日本は最も好感度の高い国に選ばれたほどだ。日本人の(すご)みである。

先の総選挙で多くの有権者は、強い経済とともに対中抑止力を働かせるとした安倍氏に国の未来を託した。危機意識の共有だ。

 ただ、国家再生の道のりは険しい。1年前後での政権交代を繰り返して何ができようか。安定した長期政権になってこそ、国難に立ち向かって国益を実現できる。だが、国民も目が肥えている。脇の甘さと緩みは命取りだ。中国の思想家、荀子(じゅんし)は、民を水に、為政者を舟に例えて、こう警告していることを年頭の戒めにしたい。

 「水はすなわち舟を()せ、水はすなわち舟を(くつがえ)す」