鳥取木鶏研究会 平成20年1月例会
安岡正篤「易学」
四柱推命の基礎知識
―この四柱推命について更に少し説明しますと、生年、生月、生日、生時の四つの柱で運命を構成することは既に述べました。これに夫々干支があるわけであります。例えば本年は、丁巳であります。そして本日即ち、八月十二日の八月は干支は戊申。十二日の干支は辛丑。午前十時は癸巳であります。
―この日の干支―辛丑を自己として他の干支と対比して、年の干支―丁巳には親から伝承した吉凶の含性と、祖先、親等、目上の人を見る。月の干支―戊申では、成年時の含性。社会性、姉妹、朋友等の関聨。時の干支―癸巳では子孫の関係を見る。また、日の干支により配偶者を見る。とされております。
本当の推命
従って丙午に生まれた女は、男を殺すなどというのは大きな誤りであることが理解できると思います。然し、問題は丙午の日に生まれた人でありますが、これは年に比較して人数が当然少ないのであります。
またこの丙午の日に生まれの人は夫婦縁に故障が生じやすいと言います。これは四柱推命によりよい配偶を得て中和する、或いは変化させることが出来ますから、これを活用しますと誤れる運命観で悩んでおる人間をどんなに助けることができるかわかりません。大変応用のきく面白い問題であります。
本当の推命
然し、これらに大切なことは、こういう基礎的な組織を解明して、どのように改創リクリエート recreateしていくかという所まで入らなければ本当の推命ではありません。そこで推すという字がつくのであります。
つまり推究して新しくこれを立てていく。然しこういう学問、折角の統計的推計的学説でありますが、これがとかく低俗になって本当の真理になりにくい。これを逆に正しく活用することが出来ると、どれぐらい世間の人々を救っていけるか計ることの出来ない功徳があると思います。これなども大事なことは宿命観に陥ることなく、立命に導くということであります。
陰?録
易を応用した学問
昔から、易を応用した学問には計り知れない功徳や貢献があります。その一つは明の時代で、ちょうどわが国では豊臣秀吉時代であります。この時代に陰?録という書物が著されております。難しい字ですが、?(さだめるという文字です。)
運命の中にある法則、これに従ってどういうふうに生活していくか、悩める者、行き詰っておる者を、どのように救済するかということであります。これは明の袁了凡(名は黄)という人が著した書物でありますが、非常に善い書物でありますので、時間がありましたらこの講座でも読んで講じてみると大変有益で楽しいと思います。
袁了凡
袁了凡は、早く父を失い、母の手で育てられ財力に余裕がなかった。従って、当時の知識階級がするように、非常な勉強をして高等官になる試験、つまり進士の試験の準備をする暇がなかった。
当時の中国で知識階級の者が一番早く世渡りの道を立てる一つの手段は医者になることでありますので、袁了凡少年は母を助けるため医者になる勉強をしておりました。
進士の試験
中国古代では、これに合格することが、知識階級の大きな目標であった。非常に難しいもので、予備試験(郷試)という郷土で行う試験に先ず合格し、それから中央官庁の最高の試験に合格して初めて進士の称号をとる。日本の高等官試験とは比較にならぬ価値と意義のあるもので、若者の最高の仕事であり難関であった。
ある日、大変立派な風貌の老翁があらわれまして、この袁少年を見て「何を勉強しておるのか」と尋ねました。少年は「父が他界したため家が貧しく、早く立身しなければならないので、母と相談をして、医者になろうと勉強している」と答えました。
袁少年
すると老人は、つくづくと少年を見て「いや、お前は立派な役人になって出世する。進士の試験にも及第する。だからそんな勉強やめて進士の試験の準備をしなさい」と教えました。
その上、お前の生涯を占ってやろうと言って、「お前は私の教え通りに勉強すれば、何年、何歳の時に予備試験を何番で合格し、本試験は何番ぐらいで合格する。そしてどういう出世をして、何歳で寿命が尽きる。大変気の毒であるが子供には恵まれない」等予言しました。
それを聞いて袁少年は非常に感動して、従来やっておった勉強を改めて専ら進士の予備試験の準備をして受験してみますと、不思議にその老翁の予言したとおりの成績で合格しました。
そこで次のから数次の試験を受けましたとひろ、ことごとく予言の通りとなりました。そこで袁少年は、「なるほど人間には運命というものがあって自分の一生は決まっておる」と定命、宿命ということをしみじみ感じたわけであります。
「くだらぬ事に煩悶したり、考えたり、野心をもつたりすることは愚だ、神様がちゃんと進むべき途を予定してくれておるので、下手にもがいてくだらんことを考えても何にもならん」という一種の諦め、あるいは悟りの心境に到達しました。
そこで生意気盛りで色々煩悶もし勉強もする青年時代から、どこか悟ったような落ち着いた一種の老成した風格が出来てしまつて、若い人に似合わぬ出来物というような人間になったわけであります。ある時、進士の試験準備のため、南京のお寺に滞在して勉強しておりました。
そこに雲谷という禅師がおりまして「あの若者は年に似合わずよく出来ておるようだ、どういう修行をしたのだろうか」と大変興味をもった。
そこで本人に向い「お前さんは、見受けたところ若いのに似合わず人物ができとるようだが、どういう学問をしたのか、どういう修行をしたのか」と尋ねました。
すると袁青年は「いや、私は特別にそういう勉強も修養もいたしませんが、ただ少年時代に、不思議な老易者が私を見て、お前はこうこうだと予言をしてくれました。
それが実に恐ろしいほど的確に当たりますので、人間には運命というものがあって決まりきっておる、くだらぬことを考えても何にもならんということに気がついて、世間の青年のようにつまらぬことを考えたり、煩悶懊悩することをやめました。
あるいは、そのせいでお目にとまったのかもしれません」と素直に告白しました。
すると雲谷禅師は、呵々大笑して「何だ、そんなことか、それじゃ昔から偉人、聖人等が何のために学問修行をしたのか全く意義がないではないか。
自分の運命は自分でつくっていくのであって、学問修行というものは、それによって人間が人間をつくっていくことなのだ、
―そういう風に人間をつくつていくのが大自然、道の妙理、極意なのだ、お前の理屈では偉人、聖人等の学問修行は何にもならぬことではないか、馬鹿な悟りを持ったものだ」と喝破しました。
陰?録
驚いた袁青年は翻然として反省大悟いたしまして、それから改めて古聖賢の学問に参じましたところ、それから後というものは、いままで何一つ予言から外れなかったのが悉く外れるようになってきた。そして自分なりに進歩向上、出世の道も歩みまして、やがて出来ないと言われた子供もできました。
そこで晩年に子供達の教訓としてその経緯を書いて残しました。これが陰?録であります。そして自分はそれによって初めて凡人の過ちを脱したというので号を了凡―了は終わる、悟るという文字でありまして、平凡の理法を悟ったという意味―と改めました。
運命は立命
この書物は大変善い。そして応用のきく面白い行動の学問です。そのうちできるだけ引用をして御紹介したいと思います。ただ重ねて申し上げたいのは、多くの人々は、易というものはよく人間の運命を研究する学問だと思い、運命というものを宿命的に考えております。
宿命ならば運命ではありません。運命は立命―新たに創造する、でありますから易は、宿命の学問ではなく立命の学問である、ということを根本的に理解しなければならぬということであります。
易は変わる、変える。
易は文字通り、変わるであり、変えるであります。
我々自身、われわれの人生、社会というものが、どういうものであり、どういう法則で存在し動くものであるのか、そしてそれに対して自分は如何に処し、いかに行動すべきかという原理を尋ねるのが易学であります。
これを最初に十分理解し承知しておりますと、この易の学問というものは非常に面白い、極めて応用の効く、そして自分を救い、人をも救うことのできる大事な使命、力をもつたものであります。
(来月は、「陰陽五行説)
日本文明は世界八大文明の一つ
日本文明は固有の文明
「一部の学者は日本の文化と中国文化を極東文明という見出しでひとくくりにしている。だが、ほとんどの学者はそうせずに、日本を固有の文明として認識し、中国文明から派生して、西暦100年ないし400年の時期に現れたと見ている」
サミュエル・ハンチントン・アメリカの政治学者の言葉である。全く同感である。「日本は大文明と一つである」というのである。
世界八大文明の一つという次第であり日本人として慶賀の至りである。
「日本文明は世界八大文明の一つ」は世界の常識
西洋文明や中華文明、イスラム文明だけが世界の大文明ではなく、日本は古代から大文明だったのである。この事を日本人は知らないが、世界では、一般的な通説であり常識なのである。
ついでに言えば、他の文明は、一つの文明の中に複数の国が入っているが、日本は一つの国で独立した文明という世界に類を見ない唯一の国なのである。
干支
十二支は子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥の12の要素。併せて干支と呼ぶ。
意味 |
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こう |
きのえ |
木の兄 |
|
いつ |
きのと |
木の弟 |
|
へい |
ひのえ |
火の兄 |
|
てい |
ひのと |
火の弟 |
|
ぼ |
つちのえ |
土の兄 |
|
き |
つちのと |
土の弟 |
|
こう |
かのえ |
金の兄 |
|
しん |
かのと |
金の弟 |
|
じん |
みずのえ |
水の兄 |
|
き |
みずのと |
水の弟 |
本語 |
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音読み |
訓読み |
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し |
ね |
|
ちゅう |
うし |
|
いん |
とら |
|
ぼう |
う |
|
しん |
たつ |
|
し |
み |
|
ご |
うま |
|
び |
ひつじ |
|
しん |
さる |
|
ゆう |
とり |
|
じゅつ |
いぬ |
|
がい |
い |