混沌として中処

ふそう銀行誌 平成元年8月号 bP51号 (現山陰合同銀行)

[戦戦兢兢として深淵に臨むが如く、薄氷を履むが如し]

今般、思いもかけぬご指名を受けましてその重責に身の引き締まる思いでございます。冒頭はその心境を詩経から引用したものであります。
金融界はいよいよ正念場とも申すべき段階に突入しつつあります。国内的に(優)廃止後に見られるマネーの動きに目が離せません。今秋実現されるでありましょう小口MMCは特に中小銀行経営を否応なく修羅場に追い込むものと考えておかなくてはなりません。国際的に見ましても国際決済銀行参加国(G10)で了解事項となりました自己資本比率8%引き上げという規制は戦後最大の銀行インパクトであります。これは銀行経営の真の革新を迫るだけでなく日本の金融の流れを変えてしまうと見られております。その過程でどのような構造変革を我々中小銀行に迫るか予断は許しません。はっきりと言えるのは銀行格差が一段と広がり金融再編成が避けられなくなり弱い銀行が淘汰の対象となるということです。
現在、国内景気は好況で経済全般は一見して平穏に見えますか銀行界の先行きは決して平坦でないと思います。かかる時こそ有事に備えて体質強化を急がなくてはなりません。
激動の時には多くの問題が混沌として渦巻きます。この時我々は如何に対処すべきでありましょうか。曾って私が謦咳に接して教えを受け、その感動今尚醒めやらない当代の碩学故安岡正篤先生の聴講ノートを繙きました。かかる時は、[混沌とする中で倫理を守り中処すること]が肝要とあります。 中処するとはご案内の通り[弁証法に言う正・反・合の過程であり、ある考え方〔正〕とそれに反対する考え方〔反〕がある時、それら二つを足して二で割るのではなく全く新しい前進した考え方〔合〕を生みだす事]とあります。運命共同体の同志であります全職員と共通の目的実現に向けて懸命の努力を致します。私自身は経営の一端を担う者としての自戒は[居仁正義]すなわち[優しい心]を持って正義(道理)を追求すること]であります。
どおかご支援ご協力下さいますようこの場を借りてお願い申し上げます。
             代表取締役常務取締役  徳永圀典