五箇条条の御誓文  ケントギルバード著より

先ほど挙げた仁徳天皇の例ばかりでなく、古来、天皇は日本人に「理想」を示す存在でした。

天皇が示した「理想」の中で、絶対に忘れてはならないと思うのは、1868年、慶応4年に明治天皇がお示しになられた「五箇条の御誓文」です。

この「御誓文」という言葉面を見ただけで、「なんだか右翼っぽい」と思う人は意外多いらしく、私がこの話をした人の中でも、決して少なくない人たちが、軽い拒否反応を示したので驚いたことがあります。

しかし何でも食わす嫌いはいけません。一度、その内容を読めば「五箇条の御誓文」がとても先進的であり、現代の日本人のみにならず、民主主義の守護神を自任するアメリカ人ですらも尊重すべき内容であることが分かります。

以下が「五箇条の御誓文」と明治神宮による現代誤訳です。

一、   広く会議を(おこ)し、万機(ばんき)公論(こうろん)に決すべし。       (広く人材を求めて会議を開き議論を行い、大切なことはすべて公正な意見によって決めましょう)

二、   上下(じょうげ)心を一にして、盛に経綸(けいりん)を行ふべし。      (身分の上下を問わず、心を一つにして積極的に国を治め整えましょう)

三、   (かん)()一途(いっと)庶民(しょみん)に至る迄、各々(おのおの)(その)(こころざし)を遂げ、人心をして(うま)ざらしめん事を要す。            (文官や武官はいうまでもなく、一般の国民も、それぞれ自分の職責を果たし、各自の志すところを達成できるように、人々に希望を失わせないことが肝要です。)

四、   旧来(きゅうらい)陋習(ろうしゅう)を破り、天地の公道(こうどう)に基づくべし。   (これまでの悪い習慣を捨てて何事も普遍的な道理に基づいて行いましょう)

五、   智識を世界に求め、(おおい)皇基(こうき)振起(しんき)すべし。    (知識を世界に求めて天皇を中心とする(うるわ)しい国柄(くにがら)や伝統を大切にして大いに国を発展させましょう。)

明治天皇は、この五箇条の御誓文を出された後、次のような勅語を発せられました。

(原文)

我国(わがくに)未曾有(みぞう)の変革を()さんとし、朕躬(ちんみ)を以て衆に先じ、天地神明に誓ひ、大いに(この)国是(こくぜ)を定め、万民保全の道を(たた)んとす。(しゅう)(また)(この)旨趣(ししゅ)に基き協心努力せよ。

(現代語訳)

これにより、わが国は未だかってない大変革を行おうとするにあたり、私はみずから天地の神々や祖先に誓い、重大な決意のもとに国政に関するこの基本方針を定め、国民の生活を安定させる大道を確立しようとしているところです。皆さんもこの趣旨に基づいて心を合わせて努力してください。

 

まさに、外圧によって日本が自らの国の形を変えようとしていた、あの苦しい時代、もしこんなことを天皇陛下が仰ったと知ったなら外国人の私でさえも、日本の社会の為に自分も何か尽くさなければならないと思ったに違いありません。この勅語はそのくらいに人の心に響くものだと思います。

 

ここに掲げられた「理想」はアメリカ人である私の胸にも、真っすぐに染み込んできます。本当に立派な指針です。私はアメリカが掲げる理想も素晴らしいものだと思っていますが、然し、江戸時代から明治時代に移り変わる、将にその時に、既にこれだけ明確な理想を明治天皇が示しておられるのは素直に驚くべきことです。この理想は現代においても何ら変更する必要のないものです。

こうやって書いているとずっと天皇と一緒に歩んできた長くて誇るべき歴史を持つ日本の皆さんが羨ましくてなりません。ですから皇室の伝統を変容させようとする動きには、日本の誇るべき歴史を断絶させる意図があることに気がつくべきなのです。

                  徳永圀典書写