大伴家持生誕1300年に思う

日本が世界に誇る万葉集、大編者・大伴家持を祀る藤井寺市・(とも)(はやしの)(うじ)神社で先月生誕1300年祭があった。

常々思う、雨は英語でrain、日本には雨の表現が実に多く調べたことがある。雨の種類は31、雨にまつわる表現は49、英語などは数種であろう。

春雨だ濡れて行こう、五月雨(さみだれ)梅雨(つゆ)長雨(ながあめ)、みぞれ、これらは大陸の人には分からぬ繊細さであろう。

花ぐもり、かすみ、稲妻(いなづま)夕凪(ゆうなぎ)、夕焼け、朝焼け、夕涼み、野分(のわけ)、野分とれば万葉集や平安の書物に思いを致す。もののあわれ、露のいのち、わび、さび、渋み、などなど優美、優雅繊細な感覚こそ日本なんだなと昔日を振り返る。これらは湿気が多瑞々(みずみず)い国土の多様性と四季の変化により自然と醸されてきたものなのであろう。

明るい静かな国府町、万葉終焉歌が有名だが私には好きな家持の絶唱三歌がある。

春の野に 霞たなびきうら悲し この夕かげに 鶯鳴くも」、

「うらうらに照れる春日(はるひ)に雲雀あがり 心悲しも ひとりし思へば」

「わが宿の いささ(むら)(たけ)吹く風の 音のかそけきこの夕べかも」

彼方の春の霞を見て鶯がホーホケキョと鳴けば家持は悲しいという。春の雲雀が飛び上がればうら悲しさと寂しさを覚え、わが宿のいささ群竹、カサコソと風に吹かれる竹の音には自らの寂しさを訴える。実に細やかな、風土に似た世界を描いている。みな、涙をもよおすように心が震えてくる。日本ならではの風土から生まれた心象風景歌である。           徳永圀典