ザ・ラストバンカー 西川善文氏 

我が古巣・住友銀行の元頭取であった西川善文氏が10月に発刊した回想録「ザ・ラストバンカー・西川善文回想録」を二日間で一気呵成に読了した。予てから、そう思っていたように、凄い人物である。住友銀行オービー会がロイヤルホテルであった時、西川専務時代であるが、私はやや離れて見ていたが、西川氏には、あたりを祓うような威令が漂っていたのを覚えたものだ。 

発売初日から大増冊、8日目で第4版の大ベストセラーとなりつつある。現役銀行員、経営者、政治家、経営者は「読む価値」がある。住友銀行とは、かかる銀行であり、西川氏に近い人材が輩出していた。この著作の「おわりに」をここに披露する。一読をお勧めする。日本の政治家の愚劣さ、メデイアの余りの愚劣さ、ナイーブで合理性の欠如した連中ばかりだと納得するであろう。          平成231023       徳永圀典

ザ・ラストバンカー おわりに

24日

私は、悪役とされることが多かった。住専問題では、銀行は、住専に不良債権を押し付けた極悪人で、それに正義派で元日弁連会長の弁護士がマスコミの後ろ盾を得て挑むシナリオが描かれた。日本郵政社長時代には、私は国民の大切な財産で作られた宿泊施設を破格の安値で売り飛ばし、歴史的な建造物まで破壊する男にされてしまつた。さらに、不良債権処理に伴う貸しはがしや銀行員の高給批判など悪役への攻撃材料には事欠かなかった。

25日

毀誉褒貶は、人の世の(さが)であり、これに抗するほど私は若くない。かと云って、毀誉褒貶を誇りとするほど私は野心家でもない。振り返ってみれば、今、そこにある難題と格闘を続け、その結果として、ほめ言葉も悪評も頂いてきたに過ぎない。

26日

私自身はむしろ、銀行を取り巻く社会や経済の環境が根底から変わり続けている中で、従来の枠に囚われずに思いの丈を躊躇わずに発し、実行できた幸せな時間であったと感じている。

27日

大手銀行の頭取を務めた人間の自叙伝であるならば大規模なプロジェクトへの融資による日本産業への貢献とか、組織の飛躍的な拡大をもたらした経営策の実践とか、一つや二つは華やいだ話題があるものだが、本書ではそうしたことには触れていない。そういうことがなかったのではない。それを懐かしむほどのんびりした時代ではなかったのだ。

28日

一貫してあるのは「破綻処理と再建」と言うキーワードである。破綻処理にも再建にも当然ながら痛みを伴う。痛みが伴わない破綻処理や再建があるというならば、それは論理矛盾というものだ。痛みが伴わないのであれば経営が破綻することなどあり得ないからである。

29日

傷んだ企業の傷んだ事業と、傷んだ資産を建て直すとは、雇用と事業をどこまで守るべきなのかを痛みを持って決断することである。

30日

私たちは全能の神ではない。一人の人間としては一人でも多くの従業員の雇用を守り一円でも多い利益につながるような事業にしたいと願う・だが、その願いを聞いて貰える程、世の中は寛容ではない。従って、血を流すことはあっても、何を最後の一線として守るかの決断を神ではないただの人間の集団がしなければならない。

31日

これは本書を書くにあたってのささやかな願いでもあったのだか、本書を読んで下さった皆さんが、私たちが合理性と現実の間で悶々としながら決断を繰り返してきたことを感じとって貰えたならば幸いだ。ビジネスはドライで、合理的なものである。これを否定する人は誰もいない。マスコミの記者も会社に属しながらビジネスとしての報道を続けているのだから、この合理性と無縁でいることはできない