1029日 先覚者

 科学の世界でも宗教、哲学、あるいは政治経済の上の偉大な仕事を見てきても、一つの新しい世界を拓くということは決して群衆大衆から生ずるものではない。必ず一人の、或いは幾人かの少数の人々から始まるのである。それがいつの間にか普及して大きな勢力となり時勢となるので、これを先覚者とか先駆者と申すのである。いつの時代でも世が衰える時ほど必要なものは、群衆の動きや軽薄な大衆に迎合しない、屈服しないで、自ら信ずるところを修めてこれを行じようというところの篤志家、先覚者であり、またその同志を一人でも多くつくることである。 陽明学十講