襲いかかる肉食獣

     平成10年1月26日  日本海新聞潮流に寄稿

明るい紺碧の海が眼下に広がる離島の草原。生い茂る青草をのどかに食んでいる小動物の群れに飢えた肉食獣が襲いかからんとして近づいている。ビッグバン、本物の資本主義、市場経済到来を迎える日本の印象である。

百鬼横行の国際金融マフィアに果たしてウブな日本は対抗できるのか。韓国を見るがいい、無残とも言える。国際資本と言う獰猛な禽獣に食い荒らされて狩場の様相を呈している。勿論本質的な問題点も抱えていた。

昨年末金大中次期大統領は国際ヘッジファンドのソロスと面談した。投機資本だ。昨年マレーシアのマハティール大統領は自国通貨を食い荒らされ彼を非難した。米国の現国務長官は直ちにソロスは良い事もしているとかばった。この阿吽の呼吸が凡てを物語る。ドイツの新聞は韓国に関してIMFはマネーを供給して資本開放を強要し米国資本が銀行、企業を安値で乗っ取っていると報じた。IMFと米国は一体だ。

千九百八十九年頃三菱地所がニューヨークのロックフェラービルを千二百億円で購入。九十五年に不動産不況で三百三十億円で買い戻された。ウブな日本を感じた。

@千九百九十年日本がピークの頃米国CIAは報告書に言う。グローバル経済の中では金融の強さが唯一の拠り所。日本から金融覇権を奪還せよと戦略を説いた。

A九十年−九十一年湾岸戦争の頃ハーバード大学ハンチントン教授は米国には最早や軍事的脅威はない、米国を脅かすのは日本経済である。安全保障上の問題であり今世紀中に片付けねばならぬと強調した。


B九十三年頃ワシントンのアスペングループは日本経済は米国を脅威にさらしている。日本にクツワをかけ馬具に結わえてしまえとも言った。


以上三点米国の凄まじい国家戦略は大成功。九十七年元大統領補佐官ブレジンスキーは日本を事実上の保護国と規定した。米国の世界戦略に組み込まれた日本。米国と言う世界最大の債務国が大軍事力を背景に権謀術策を駆使して国益を追求し世界のマネーを集め好況を謳歌している。勿論機敏明快な政策発動はしている。日本など小出し後追いの政策発動で国家意志が無いに等しい。騎馬民族と農耕民族、肉食動物と草食動物、大陸国民と島国国民のスケールの違いを感じる。アングロサクソンの本質を見る。

国際金融の巨大な渦、莫大なマネーを駆使して一国の政策とか構造に隙あらば挑みかかる嗅覚。本質は冷血、非情なる策謀を持つ国際マネーマフィア。売り浴びせて投機利益を得る。対抗出来る日本の政治家官僚がいない。国民資産の番人である米国連銀総裁、財務長官と日銀総裁、大蔵大臣達の覇気の違いを見よ。

米国の政治家には金融のプロがゴロゴロしていると聞く。市場原理による市場メカニズムの圧力。日本には対抗する覇気も頭脳もなく国民資産は確実に減価し蝕まれている。
国家の体をなしていないではないか。まさしく町人国家。普通の国を忌避してきた結果だ。英国は侍サッチャーの時ビッグバンで不況に耐えた甲斐あり今や絶好調。日本には信念と決断力ある政治家は現われぬのか。望みがあるのは一部製造業の技術力。

世界一の金持ち日本がカネで苦しむ。世界一の借金国米国が世界のマネーを牛耳る。どこかおかしい。覇気も信念も無い政治家、国家官僚は有効な対策を断固打てない。ここに真の原因がある。国家として主体性ある国益追求を本気でやっているのか疑わしい。公定歩合引き上げなど米国への気兼ねで簡単には出来ないであろう。

国益追求など成り行きまかせではないか。国民は町人国家の悲哀を二十一世紀も味わわねばならぬのか。国際化と規制緩和の結果は益々辛辣となる。既に選んだ道だ。一段と米国化が進むが日本は現状これ以外の選択肢は無い。国民が日本の価値観に誇りを持たぬなら国際化、市場経済の浸透は日本の文化も伝統も思考も気質も大きく変貌させる。百年待たなくても今の日本でなくなっているであろう。  完 
                鳥取木鶏クラブ 代表  徳永圀典