滅びの原理 平成10年9月2日 日本海新聞潮流に寄稿  

最後の将軍徳川慶喜も放映中であり黒船に関する一考察。
幕末、三〇〇年の鎖国の夢を覚ましたのが米国ペルー率いる黒船の来航。島国に安穏に暮らしていた当時の日本人には大変なショックであったろう。尊皇攘夷だ開国だと大揺れ、幕府は平和ボケで当事者能力無し。なんだか湾岸戦争、阪神大震災、今年のマネー騒ぎの時とソックリだ。
この時米国の強引な開国要求で遂に和親条約を結ぶがこれが大変な不平等。金小判が大量に海外流出した。これも今回のマネー騒ぎと似ている。

当時海外では金一に対して銀一五.五の比価。日本では金一に対して銀五であった。条約では貨幣の交換は金は金、銀は銀とあるのに外人は日本に銀貨4ドル持参して一分銀一二ケと交換する。四分が一両なので小判三枚入手する。小判は一枚四ドルであるから三倍の儲けとなる。

このように昔から日本人はマネーで彼等にしてやられている。ウブな日本が狙われるのは今も昔も変わらない。近年外資系のインチキ臭いデリバティブで大損をだした企業があった。オットットッ、横道にそれた。平成マネー騒ぎの今回も本質的には同じ。


さて、一旦開国したら攘夷はどこへやら欧米一辺倒となる。まあ、それはいいとして四〇年後ロシアに戦争で勝つと次第に視野狭窄となり軍部の独走を許し始める。その四〇年後米国の巧みな外交にしてやられて太平洋戦争を起こす。和平のチャンスはあったのに片意地張って敗戦。

マッカーサーと言う第二次黒船で日本は徹底的に変革された。農地解放を初めありとあらゆる二千年の伝統も。但しこれは良い面もあった。農地解放も民主も自由も。
然し日本人は自由を放縦と無責任と覚えてしまった。平和のお題目さえ唱えればいいとも。これは大乗仏教の好きな日本人らしい。お陰で日本は未だに実質的に占領されたままだ。だって我がもの顔に米国戦闘機がこの山陰でも低空飛行している。平和のお題目だけ唱えれば平和のお浄土に行けると思っているらしい一部日本人。


戦後は明治の精神遺産もあり経済大成長した。ソ連崩壊の頃、日本経済は絶好調で欧米は弱っていた。この時に歴史の本質を洞察し国家の大戦略を樹てる指導者が不在であった。先見性が必須の政治家も国家官僚も食糧費で花見酒の前後不覚。気がついたら欧米は立ち直り日本は彼等の術策にはまっていた。製造業で稼いだマネーは吸い取られアメリカさんの財布代わり。これが実態だ。近年大きく国富を失ったのは第一次二次黒船と同じ。これは国民に見えにくい。目先が本当に困らないと動かない日本人。農耕民族は戦略性が無い。

マネーの混乱を自ら解決出来ず遂に世界に名だたるマネーのドン、サマーズさんにお出まし願ったのがこの6月。これが第三次黒船。これは新しい戦争の敗北だ。敗れぬと変われぬ国だ。これは高くつく。民族的な後遺症となる。明治の精神遺産は食い潰しているから復調は容易でない。

自己変革不能は歴史が示す滅びの原理だ。日本の近未来はこれで決まった。4流国に成り下がる。何故か、不易たるべき國の核が消滅寸前で危険な兆しすら見えるからだ。現実を直視し即応しない民族性に基因する。独立独歩の精神が無いからだ。マスコミの主流を占めてきた戦後の一部思想にも起因する。それが日本人を根本的におかしくした。本質を洞察しないで歴史のバブルに踊らされ今尚目が覚めないと云う現実。

その戦後教育の結果が今日現われて青年少女がおかしくなった。国歌とか国旗はどこの國も民族精神のシンボルとして大切にするのに日本人はしない。國とは民族の汗と血で守るものとは外国人が示している。余談だが外国の国歌は実に戦闘的な歌詞ばかり。日本の国歌の歌詞は平和そのものだ。自分の國に誇りを持ち自分で守る、これが究極のポイント。

今回も二一世紀への大変革を自ら出来ないで米国の黒船に依存した。日本人は猛省しなくてはならぬ。 二一世紀、世界的な修羅場に直面して身に染みる時が来るであろう。私は死んでいるからまあイイカ。でも子や孫が可哀相だなあ。 
                    鳥取木鶏クラブ 代表 徳永圀典