1112日 平素の覚悟

 

 日本民族の理想的精神は如何に生くべきかの問題について深刻な練磨を重ねた。如何に生くべきかは寧ろ武士の教えの如く、如何に死すべきかとした方が切実であろう。人は天晴(あっぱれ)な死を遂げむ為に、必然平素に於て死の覚悟がなければならぬ。何となれば天晴(あっぱれ)の死し絶対的価値の体現、即ち永生である。然るに死に臨んで忽ち狼狽するようでは静慮より発する知恵は光を滅して至尊なる価値を体認するよすががない。絶えず死を見つめるだけの余裕があって、始めて不朽の価値ある死に就くこともできるであろう。

              士学論講