中国が「歴史の直視」迫る一方で踏みにじる日本の戦後史 古森義久

「中国の習近平政権は『歴史』の利用で日本をたたいて悪者とし、日米同盟を骨抜きにすることを主要な対外戦略としている。歴史に関しては中国こそが全世界でも最大の悪用者なのだ」

 米国歴代政権の国務、国防両省の高官として東アジアを担当したランディ・シュライバー氏がワシントンでの10月の演説で明言した。同氏が所長を務める安全保障研究機関「プロジェクト2049研究所」などが開いた中国の対外戦略についての討論会だった。

 日本にとって対外関係では「歴史」という言葉がいままた重くのしかかってきた。今月はじめの日中韓首脳会談の共同宣言で「歴史を直視して」と、うたわれた。9月末の国連総会では習主席が演説で抗日戦争勝利の歴史を「日本の軍国主義」という語に力をこめながら、いやというほど語った。中国政府の代表たちは国連では「日本軍の化学兵器の残虐性」を叫び、「日本の核兵器開発の危険」に声を荒らげる。英国駐在の中国大使は安倍政権を「ハリー・ポッター」の邪悪な魔法使いにまでなぞらえた

この種の反日キャンペーンの過熱にさすがに英誌「エコノミスト」が今年8月に巻頭社説で「日本の悪魔化は危険」と逆に中国を批判した。日本を現代の悪魔のように描くのは不当であり「中国こそアジア制覇の野望のために歴史をねじ曲げ、日本の弱化に利用している」と非難した。

 だが日本では中国からの歴史問題糾弾となると、自国側に非があるかのように、うなだれてしまう向きも多い。米国の一部でも日本側の歴史認識への批判的な視線は存在する。

 この点、シュライバー氏の見解は明快だった。同氏はまず習主席がまれにしかない国連演説で抗日戦争の歴史に最も多くの言葉と精力とを割いた事実は中国が歴史利用の日本糾弾を当面の最大の対外戦略としていることの証明だと強調した。そのうえで同氏は語った。

 「中国は歴史といっても1931年から45年までの出来事だけをきわめて選別的に提示し、その後の70年間の日本がかかわる歴史はすべて抹殺する。日本の国際貢献、平和主義、対中友好などはみごとに消し去るのだ」

「中国の歴史悪用は戦争の悪のイメージを情緒的に現在の日本にリンクさせ、国際社会や米国に向けて日本はなお軍国主義志向があり、パートナーとして頼りにならないというふうに印象づける」

 「中国はその宣伝を日本側で中国と親しく頻繁に訪中する一部の著名な元政治家らに同調させ、日本国民一般に訴える。だがこの10年間、防衛費をほとんど増していない日本が軍国主義のはずはなく、訴えは虚偽なのだ

 シュライバー氏はそして「歴史の直視」に関連して中国ほど歴史を踏みにじる国はないと強調するのだった。

 「中国は大躍進、文化大革命、天安門事件での自国政府の残虐行為の歴史は教科書や博物館でみな改竄(かいざん)や隠蔽(いんぺい)している。朝鮮戦争など対外軍事行動の歴史も同様だ」

 やはり日本は中国にこそ「歴史の直視」を迫る時機だといえよう。(ワシントン駐在客員特派員)