日本の夫婦愛
古代8世紀、奈良から京都への山城道を歩む夫婦の旅商人、
妻「おとうさん、よその主人は馬で行きてるよ、それを見ると、私はとても心が痛みます、悲しいです。母が形見として残してくれた澄んだ鏡とトンボ柄の反物があるからそれで馬を買って乗って下さいな」、
夫「馬を買ったとしても、それでもお前は歩かねばならないのだよ、足が石につまづくことがあっても二人で歩いて行こうよ」。
夫婦愛の極致の歌であります。今から1300年前に歌われた無名の夫婦の歌、涙を誘われる。
主として関西圏で、私は現役時代の40歳過ぎから還暦までの現役時代20年間、部下とか得意先に正賓として招聘された披露宴とか仲人役ではこの歌を大きめの白扇に墨書して朗読し、やわらかく解説しお祝いとして差し上げて来た、延べ20扇となろうか。中には玄関の飾りにされていたり、子供ができたときのお知らせには白扇回顧談を賜ったこともあった。
愛娘を湘南に嫁がせることになった親友に貴兄似のいい娘さんだ、きっと良いご夫婦になられるよ、日本人には古来からこんな素晴らしい歌を持つ先祖があったのですよと申し上げた。
さあ、原文で声高らかに朗読してみよう、しみじみとした情感が湧いてきます。
「つぎねふ 山背道を 他夫の馬より行くに
おの夫し 徒より行けば 見るごとに ねのみし泣かゆ
そこ思ふに 心し痛し たらちねの 母が形見と わが持てる
まそみ鏡に蜻蛉領巾 負い並め持ちて 馬替へ 我が背 」
「馬かはば 妹徒行ならむ よしゑやし
石は履むとも 吾は二人行かむ 」
徳永圀典