113日 ありのままの人間の徳 その一

 私、安岡正篤自身、中学初期頃に最も愛読した一つは、平家物語であったが、あの冒頭にある、祇園(ぎおん)精舎(しょうじゃ)の鐘の声も、沙羅(さら)双樹(そうじゅ)の花の色も、意味は判らぬながら、子供であった自分の心肝(しんかん)にまざまざと判ったのである。これは(こん)(ぼく)の徳の賜であり、大人にはその文の字句の説明だけが主にされる。子供は非常な感激性と直覚力を持っているから、教育も下手な算盤勘定によらず、理解力とか判断力とかもさりながら、真理人道に対する熱烈な共鳴を培うべきである。