西晋一郎先生の「御進講草案」1

昭和十八年一月二十二日 皇居にて昭和天皇に御進講された草案である。

 

進講申上ゲマス。漢書ハ論語デ御座イマシテ、論語顔淵篇子貢問政ノ章ニ孔子ガ弟子ノ子貢ノ問ニ答ヘマシテ政ヲ為ス道ヲ説キマシタ。其ノ本文ヲ読ミマスト、

 

子貢問政、子曰、足食、足兵、民信之矣子貢曰、必不得巳而去、於斯三者何先。曰.去兵。子貢曰、

 必不得巳而去、於斯ニ者何先。曰、去食。自古皆有死、民無信不立。

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(徳永注釈)

(しこ)(うま)(つりご)(とをとう)子曰(しのたまわく)足食(しょくをたらし)足兵(へいをたらし)民信之(たみこれをしんず)子貢曰(しこういわく)必不得已而去(かならずやむをえずしてさらば)於斯三者(このさんしゃにおいて)何先(なにぉかさきにせん)曰去兵(いわくへいをさらん)、子貢曰、曰必不得已而去(かならずやむをえずしてさらば)於斯二者(このにしゃにおいて)何先(なにぉかさきにせん)曰去食(いわくしょくをさらん)自古皆(いにしえよりみな)有死(しあり)(たみ)無信(しんずるなく)不立(んばたたず)

(徳永現代語訳)

子貢が政治についてお尋ねした。先生が言われた、「食物を十分にし、軍事を十分にし、人民に信用してもらうことだ」。子貢が質問、もし、やむを得ない理由で、この三つのうち諦めるとしたら、どれを先に諦めましょうか。先生は言われた、「まずは、軍事」。子貢が申し上げた。残りの二つのうちのどちらを先に諦めますか。先生は言われた、「食物を諦めよ。古来から人はみな死ぬが、人民に信頼がなければ国家は成り立たぬ」。

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