大臣と言う呼称は時代錯誤       
      
               平成11年11月18日 日本海新聞潮流に寄稿
  

1] 言葉とは不思議な魔力を発する。議員と言えば良いのに先生と言うし言われたがる。大臣となると麻薬にかか った様なものらしい。考えてみればこれ程古色蒼然たる言葉は無い。今日迄よく使われてきたものだ。私はかねて から大臣と言う呼称は大時代錯誤的なものだと思っている。社会の風潮を俯瞰するに政治が余りに悪るすぎる。 諸悪の根源と思える。

政治は最高の道徳と言ったのはアリストテレスだが人間社会で政治の道徳律が高ければど れ程社会の規範となり良い影響を社会に与えるか計り知れない。国会で政治家は嘘の見本市を日々テレビでやっ て見せ政治不信を招いた。政治悪の原因と現象は多々あるが大臣が派閥順送りとか年功序列とかで任命されると 国家の損害は甚大だ。年功序列は民間では既に過去の産物である。政治の世界では人事の原則である適材適 所が機能不全の様だ。親方日の丸の議員と行政の世界が旧態依然としており効率が実に悪い。その原因の一つ に大臣病があると思える。大臣、おとど、大いなる臣下。


2] そもそも大臣とは大宝律令即ち七百一年に出来た我が国最初の律令発布の時に制定されたものだ。大納言と か中納言も一緒に出来ている。更に申せば身分制度が完成し国民が良と賎に二大別された時の産物である。さす がに太政官と言う呼称は明治18年内閣制発布の時に廃止されている。敗戦後五十年、民主主義先進国と自覚す る現代で尚残っているのは現代の一大不思議ではないか。大臣に相応しい品性と実力の無い人々が汚職とスキ ャンダルにまみれて如何に政治不信を招き国政をマヒさせたか。その弊害は頂点に達していると言うのは言い過 ぎであろうか。古色蒼然たるこの呼称に魔力がある。

3] 要するに
@大臣と言う呼称は時代錯誤である。
A呼称制定の時代、政治は支配階級の為のものであった。現代の政治は国民の為のもので主権在民の民主主
義国には不似合いである。                 
B政治は国民の安全保障と国家の維持発展の為のものだ。その最終責任者の呼称は常に国民への奉仕を意識 するものであるべきではないか。

Cかかる観点から官公庁の事をお上とか役所、公務員の事を役人と言うのはいかがなものであろうか。なにげな く使用しているが元々は民が官に対して卑しいからいけないのだ。大臣初め公務員総て国民が命懸けで稼いだお 金で国民が雇用している公僕との認識を高めたい。
Dその他、官庁が使用している用語の如何に陳腐で大宝律令時代を彷彿とさせる言葉が使用されているか。国 民感覚と乖離した意見を総理以下官僚が述べる事があるのは彼等が太政官時代そのままの意識でかかる用語を 使用しているからではないかと思いたくなる。少しは改善されて来たが用語が国民の一般感覚に馴染むものに早く 徹底する必要がある。これはマスコミ自身も敏感に対処すべきだ。
E私は日本の伝統が破壊されて行くのを深く悲しむものの一人であるが大臣の名称は時代錯誤だと訴えたい。
古 き良き時代の日本の伝統は皇室に残しておけば良い。我が国の草創は天皇を中心とした歴史であり可能な限り残 すべきだが主権在民の現代、大臣の改称を実現する時期が到来していると思う。官庁用語改変のオンブズマン が出来ても良いのではないか。政治、行政全般に亙り国民の一般常識に沿ったものが生まれて来るのではなかろ うか。 徳永圀典