苗木の知恵・人間の苗木  

この頃は、麦畑が少なくなりましたが、昔はこの上本町(大阪市)周辺でも麦畑がありまして、早春になると百姓は朝早くから麦畑に出て麦踏みをやっておりました。麦は踏んで根固めをしないと徒長(とちょう)してよい麦ができません。 

植林でもそうです。良い土地に沢山肥料を施して苗木を下ろすと木は徒長して脆弱(ぜいじゃく)で役に立たないものになる。

そこで荒れ地に苗を密植して木を(いじ)め、ある程度成長した時期を見計らってこれを分植する。そして少しづつ自然肥料を与えて化学肥料はなるだけ避ける。そうすると材質のよい木が得られます。 

人間の苗木 

人間も同様でありまして、なるべく少年時代に鍛えておかないと徒長して駄目な人間になってしまいます。 

近頃甘い母親が育てた過保護の学生が問題になっておりますけれども、昔は中学校(現在の高校)の入学試験に親がついて行くなどということは無かった。

第一、子供が恥ずかしがって親と一緒に行きませんでした。 

処が昨今は大学まで母親や父親が心配そうについて行く。酷いのになると入社試験に親がついて行く。 

こういうことは世界の文明国で日本ぐらいのものでしょう。いかに日本人が甘ったれておるか、過保護になっておるか、ということが世界的な話題になっておりますが、こんなことで確りした日本人で出来る訳がありません。もっと鍛えねばいけません。 

現在の教育 

そういう意味で現在の教育を見ておりますと、非常に用意が足りません。 

剣道を例にとっても、昔は、先ず礼儀作法を教え、それから足さばき、構え、打ち込み等を稽古させて、なかなか試合をさせませんでした。 

これは柔道も同様であって、先ずお辞儀の仕方から、身体の訓練をやって、試合等は余ほど後にならないとさせませんでした。つまり予備教育・準備教育に十分時間をすけたのであります。 

安岡正篤先生の言葉