1210日 人生は旅

 それ天地は万物の逆旅、光陰は百代の過客なりと言った李白の言葉を、ふと旅の寝覚(ねざめ)に思い浮かべた。自分自身もまた、そう言えば、いろんな人間や書物・事件などの逆旅(はたごや)であった。或いはまさしく過客(かきゃく)であった。逆旅といえば随分いろいろな人物が出入した。数多い事件に逢着(ほうちゃく)した。種々の書物を読んだ。静かに考えるといかにも面白い。自己の存在に無限の興味を感ずる。もしこの一年の過客(たびびと)の生活と観ずれば、これほど面白い旅はなかろう。憂いこと、愉快なことも腹立たしいことも馬鹿馬鹿しいことも様々な見聞をした。その全てが文芸であり教訓である。  経世瑣言