南京事件から70年を迎え、中国の南京大虐殺記念館がリニューアルオープンした。「30万人虐殺」が改めて明記され、信憑(しんぴょう)性に乏しい写真などはそのまま展示された。
江沢民政権から胡錦濤政権に代わり、中国にも少しは自由な研究の雰囲気が生まれ、公式見解の「30万人虐殺」に懐疑的な意見も許容されるようになったといわれる。日本では実証的な研究が進み、南京などの抗日記念館に展示されている「残虐写真」の多くが史実に反することなどが分かった。外務省はこうした日本の学問状況を非公式に中国に伝えていた。
だが、日本側の期待はほとんど裏切られ、日本の政府開発援助(ODA)を紹介するパネル1枚が展示された以外は、反日的な展示が大量に追加された。歴史問題で中国の対日姿勢が変わっていないことがうかがえる。
南京事件は、旧日本軍が昭和12(1937)年末、南京で多くの捕虜や市民を虐殺したとされる事件だ。改めて言うまでもないが、「30万人虐殺」は中国の一方的な宣伝にすぎず、それがあり得ないことは日本側の調査や研究で判明している。
新しい虐殺記念館には、南京事件とは別に、日中戦争で3500万人が犠牲になったとする「日本の侵略戦争」コーナーも設けられた。
「3500万人」は、江沢民・前国家主席が95年にモスクワで行った演説で言い出した数字だ。中国の軍事博物館や教科書はそれまで、中国軍民の死傷者を「2168万人」としていたが、この演説以降、一斉に「3500万人」という数字に書き換えた。根拠のないまま、犠牲者数を膨らませていくのは中国の常套(じょうとう)手段である。
昨年10月、日中首脳会談が5年ぶりに再開されたこともあって、中国国内での対日批判が抑制されているように見えるが、北米などでは、南京事件をテーマにした反日映画が次々と制作されている。偽書に近いアイリス・チャン氏の著書「レイプ・オブ・南京」を題材に取り込んだ作品が多い。
国際社会で誤った史実に何も反論しないと、それが“真実”として定着してしまいかねない。日本人がいわれなき非難を受けないために、外務省は日本の実証的な研究成果を世界に向けて積極的に発信すべきである。