124日 倒置の民

 志とは何であるか。今、人が志を得るというのは地位名誉権勢、俗にいわゆる出世のことであるが、本来、志を得るというのはそんなことではない。名聞(めいぶん)利達(りたつ)を持ったとしてもそんなものは本質的な存在ではない。偶然の出現に過ぎぬ。また偶然に去るかも知れない。そこで出世したとて好い気にならず、窮厄(きゅうやく)したとて俗に(はし)らず、ただ己を正しくする。そこにおのづからなる楽しみがある。その楽しみの全きを志を得るというのである。名利に志す者は名利を得れば楽しむが、失えば忽ち(すさ)んでしまう。いわゆる己を物に(うしな)い、性を俗に失うもので、これを倒置(とうち)の民という。

               老荘思想