安岡正篤先生の言葉 平成2912月 徳永圀典選

胎児が人類の運命 

 胎児というものが非常に大切である、よい胎児を宿すということが、人類民族家族の運命を決するものである。人間は或る個人がいくら偉くなってもそれで止まりです。例えばみなさんがいくら出世をしようが、色々の意味でいくら偉くなろうが、それはその人一代で終わりで、それが倅や娘に遺伝することはないのです。

 親爺が偉かったから子供はその頂点から伸びるかというとそうはいかんのです。もとのイロハからやり直しですね。特に男に於いてはそうでありまして、古人の場合においては発達ということは尊いことであるが、長い目で見ると、個人的生命を越えた永遠の生命、即ち家族民族人類というふうに考えていくと、これは男が一代でいくら偉くなっても大した意義はないのです。

 結局、子を生む者にまたなければならない。こうなったら嫁です。嫁を貰って嫁の腹を借りて胎児が出来る。その胎児から伸びていくのです。生物進化、ヴ物進化の過程を辿っても同じ事であって、猿の最も発達したそのものよりも、その猿の発達した胎児の方が人間と非常によく似ているのです。だから猿の発達のある段階から人間が分かれたということが判明しております。いかなる立派な胎児を持つかということが家族民族人類の運命を決するのです。

              安岡正篤先生講演集

胎教は東洋が重視

 幼児よりもさらに可能的状態である胎児がもっと神秘的なものであります。胎児を最も良く育てるということ、これが最も根本的に大切なことであります。胎児の研究は西洋近代の学問では軽視されていました。むしろ東洋の方が「胎教」と言って早くから重要視していた。

 胎教などと言うと、西洋式医者とか心理学者たちは、全く非合理的・迷信的なもののように思っておりました。これもごく最近になって、胎児の研究がいろいろの方面から発達して参りまして、生物進化の系統からいうと、胎児というものが最も根本的な重要問題だと分ってきました。

 胎児の研究のことをネオテニー、neotenyと言う。しかし、まだこれは未開で、おそらく今後科学的にするぶる未来性に富んだ面白い問題の一つとして注目されております。胎児が大事だということは、母の、従って妻の思想、精神、人格、生活態度、慣習というものがいかに大切であるかと言うことになります。

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