国益背任罪? 
平成12年5月11日日本海新聞潮流欄に寄稿
 
1.背任罪という言葉はバブルが弾けて以来どれ程耳にしたであろ  
  うか。NTTの社長、大銀行の首脳、不動産会社の社長と枚挙に
  いとまがない。バブルの経済事犯の処理にあたり多くの民間企
  業の幹部が逮捕され中にはそれを機に倒産さえした会社もあった。

2.私は法律家でもないし法律論を展開しようとしているのではな
  い。現在の法律に基づいて法律違反はドンドン摘発し諸悪を退
  治して頂きたい。民主国家の唯一の正義の御旗は法律である。

3.掲題の背任罪、中でも特別背任罪とは何か。会社の取締役とか
  監査役などが自己、もしくは第三者を利し、また会社を害する
  意図のもとに、その任に背き、会社に財産上の損害を加えた時
  は特別背任罪として重く処罰されるとある。

4.私の記憶にある過去数年の為政者とか国家官僚の発言である。
  バブル後、宮沢元総理と澄田元日銀総裁はバブル発生に関して
  政策ミスを認めていた。又、宮沢氏は極く早い段階で銀行に公
  的資金を導入すべきと言ったらしい。大変な識見であり流石と
  思う。今日の事態  を予見していたのだ。この段階で宮沢氏
  が万難を排して確とした指導力を発揮しなかった。国民に事態
  を真剣に訴えていなかった。国際金融経済に関心を持つ私です
  ら知らなかった。これは悔やまれてならない日本の痛恨の悲劇であろう。

5.この4月にも宮沢氏は金融ビッグバンは時期が早すぎたと言っ
  た。私ですらあの時期に橋本元総理が何故ビッグバンに踏み切
  るのか疑問に思っていた。明らかに国益を害すると思われた。
  それを後で認めそれだけですむとは政治家とは結構なものだ。
  国民がこれだけ苦しみ、国富の大損害が発生していると言うの
  に。為政者は口先だけですむのであろうか。前述の通り民間企
  業の首脳は背任罪として刑務所行きである。

6.銀行の不良債権であるがバブル直後にあった不良債権などとっ
  くに銀行は償却している。その後の金融財政政策が不味いから
  不況が深刻化し融資先の担保価値がドンドン目減りし倒産し銀
  行の不良債権が止まることなく増加しているのだ。不況のカネ
  の面の尻拭いを銀行がしているのだ。初めに不良債権ありきで
  はないのだ。

7.金融ビジネス5月号に金融再生委員長の発言がある。銀行のス
  ケープゴート化は政治の不手際にも責任あり、のタイトルだが
  婉曲にそれを認めた内容である。

8.  銀行が政治のスケープゴート化されていると私は思ってきた。
  銀行のビヘイビアーも確かに悪かったが、融資を受けた側も、
  この融資を受けたら確かに儲かると確信し自己責任に於いて融資
  の捺印をした筈だ。結果が儲からなかったから融資したほうに責
  任を求めるのは契約社会の欧米では通用しない。子供じみている
  。日本は村の資本主義と言われる所以である。

9.政治家とか国家の中枢官僚とは国民の生命、財産、安全と言う国
  益を守るのが最大の使命である。バブルを安易に発生せしめた施
  策、公的資金導入のタイミングを逸したが故の大損失は為政者の
  特別背任罪に該当する事態と言えるのではないか。勿論、そんな
  法律はないが民間企業の社長は遠慮なく背任罪で逮捕されるのに
  為政者等は政策ミスで国益に大損害を与え国民は呻吟していると
  いうのに口先だけで終わっていいものであろうか。

10.その他、対米交渉で不当に国益を損傷していると思われる点を
  多々感じるのは私だけであろうか。
  以上、素人の素朴な疑問に過ぎないが不審に思う。政治は最高の
  道徳と言ったのはアリストテレスだが、為政者の責任の在り方に
  ついて合理的な方策がないものであろうか。          

鳥取木鶏クラブ 代表世話人    徳永圀典