江戸・大坂のマネー感覚  

平成12年6月8日 日本海新聞 潮流欄に寄稿
 
江戸は幕藩時代は武士の町、旗本と外様の武士はさしづめ国家官僚と地方公務員
大坂は商人の町、人口40万の時代に武士は500人程度。現代風に言えば武士は公務員、商人は企業家か。現代の公務員でもそうだが江戸の武士もおカネは使う事しか知らぬ人。稼ぐ事を知らぬ人に生きた経済は本当の処は中々分かるまい。

町人はカネのみに生きた。カネ儲けは己の才覚と度胸で命がけもあるのだ。だから大坂では世界最初の先物相場の米市場が発達してデリバティブの原理を使用していたと言う。これは金融派生商品の一つの難解なもので欧米の金融機関が駆使して後に日本が見習った。大坂は資本主義の原理が既にあった。そのお株は現在は欧米にとられて日本はしてやられている。

さて、広く日本の金融界を俯瞰してみる。生保では日本生命、証券では野村証券、都銀では住友銀行と三和銀行、何れも業界トップの冠たる存在である。全て本拠地は大阪だ。住友は銅山、三和も三井も江戸時代の商人の祖を持つ。三菱は明治以降、武士の流れを持つ岩崎家が政府の支援を基礎として成立。官の背景がある。バブル期、三菱銀行はオットリしていて大蔵・日銀検査でもっと住友を見習わないと負けると言われたらしい。その功?があり不良債権が少なかったと言われる。富士銀行は現在でも東京都の公金を一手に引き受けている。楽にカネを集める事ができる。官の背景が大きい。

官の権威を背景に紙切れ一枚の金融債で何千億もカネを集めた興銀は直接金融が進みビッグバンとなると存立の基盤を失い遂に富士銀行と第一勧銀と統合した。「興銀の不治(富士)の病で一巻(一勧)の終わり」となった。長銀も日債銀も紙切れ一枚の金融債でカネを集めた機関だ。矢張りカネは汗水流して集めて貸し出す関西の金融機関が逞しいし強いと見た。

金融債で、戦後できた長銀マンがスマートと言うが遂に倒産した。カネの値打ちが肌で分かっていなかったのであろろう。楽して融資できる銀行であったのただ。汗水流して集めたおカネは融資が真剣になると思う。
そう言えばバブル前、東京系の大企業はややこしい問題解決を直ぐにカネで解決しようとしていた。腰が弱いと思ったものだ。今は違うのであろうが。キリンビールがアサヒビールのスーパードライに負けた。キリンは三菱のお殿様で追われだしたら弱い?アサヒビールの成功は関西源流の住友銀行出身の樋口社長の時だ。
次に外資系の金融機関だが日本のようにウブではない。法律スレスレをくぐり抜ける。ビッグバン以降凄まじいばかりに暴れ貪っている。日本的オーソドックスな銀行員は理解に苦しむ。スイス系であったか、本部とグルになり金融検査の証拠隠滅、米系の詐欺に近いカネ集め。

最近は公的資金4兆円を受けて外資が10億円で買った上述の長銀、買収者はオランダに本部を置く投資法人らしいが、今は宝の山と言われているらしい。数年後は利益を計上できる由。それなのにこの銀行が利益をあげても税金はピタ一文も日本政府に入らぬらしい。外国から見ればピエロの漫画だ。だから日本は益々ナメラレル、脅される。

日本の銀行を叩くよりこれらをしっかり追求せよ、大マスコミ。公金を入れてもこのザマだ。嘆かわしい。現象のみ追いかけて社会現象の本質を徹底的に追及しないからだと思う。この問題は本紙で健筆を揮っている岩国氏が議会で追求された。
日本国は実にオメデタイ。政府も官僚も議員もマスコミも国民もだ。経済合理性とか政策を徹底的に追及しようとしない国民性が背後にあると見る。マネーの世界は生き馬の眼を剥く世界だ。ビッグバンを橋本総理が押し切られたのは満期が到来する郵便貯金210兆円が狙い目ではないかと疑う。金利に釣られて大量の個人マネーがカネの無いアメリカさんへ注ぐと元も子も無くなる。
株も外国為替もブレル度に誰かを儲けさせている。しっかり自己防衛しなくては。
                                          
        鳥取木鶏クラブ   代表世話人   徳永圀典