日本海新聞潮流寄稿 平成14年11月1日

ただ公私の間に在るのみ

世間のほとぼりが冷めた現在こそ冷静に新しい歴史教科書問題について考えて見る必要がある。昨年、反発ムードが大マスメディアとかに見られ世間を騒がせた。当時、私の個人的に知る教員、公務員、一般国民の殆どは採用賛成だなと思った。その時、ある方から次のようなお手紙を頂いたことすらある[身近な人と話をしてみると、某新聞などに代表される左翼的な考えを支持するのは、案外少ない。夫婦別姓にしても、近所の奥さんなどほとんど反対です。在日外国人に対する、国籍条項撤廃も地方参政権付与も大抵反対です。首相の靖国参拝もほとんどが当然という答えでした。担当公務員が反対する理由は韓国との関係を悪くするとのことでした。私は一般国民と教育関係者、政府、行政関係者、マスコミ知識人との間にかなりの乖離があるような気がしてなりません。しかし一般人は中々声を上げませんし、その手段を知りません。そのため行政、教育関係者などは大新聞、テレビなどの声を国民大衆の声と思い込んでいるのではないかと思います。]と。

今年8月15日、愛媛県の新設県立高校で新しい歴史教科書を採用する事が決定した。愛媛県教育委員会も県知事も採用の主体性を徹底的に貫いた。妨害に対して県警の保護さえ受けた。この間、反対派は動員して騒いだが
昨年と全く反対の現象がおき賛成多数で採用された。昨年は多くの国民も各界の人たちも殆ど無関心で、その隙を反対派が声を高くして騒いだわけだ。今年は愛媛県民の方々が関心を持ち立ち上がった為に賛成多数となり採用されたのだ。それは次のような結果である。愛媛県の今年の署名活動の結果は賛成 411,934人、反対32,284人。
ちなみに、昨年は署名活動は無かったが、採用賛成198通、採用反対2038通。今年は賛成4749通、反対数1622通。一目瞭然の結果であり、上述の書簡が洞察した通りの結果となった。県民の良識が発揮され日本国民としての主体性、子弟教育権、国家の主権も守られた。
これは当然の結果であり国民の大多数の気持ちを反映しているものと思われる。多くの人々が意思表示し行動したからこそこの結果が得られたと思う。反対、反対と世間を賑やかし騒ぐものが必ずしも多数の意見とは限らない事を明快に示した。愛媛県民は日本人としての良識を示した。これは、指導者である知事を初めとする関係当事者が国民の声なき声を見極め、胆を据えて、日本国民としての主体性と見識を堂々と発揮し行使すればこのような結果となる事を証明したと言える。素晴らしいというより至極当然だ。
この問題の本質はここにあるからだ。教科書は他国から指弾される筋合いは毛頭ない。愛媛の結果から昨年度を類推すると、関係当事者の勇気が無く、騒ぎ立てる、即ちノイズイな少数派―マイノリティに負けて、大切な国民の主体性と教育権を放棄し国民主権に恥辱を与えたと言える。地方でも国家的なこのような大切な問題は、日本の未来の為に堂々と怯む事無く対処していかなくては国家の未来を誤る。関係当事者は心して信念と勇気を持って欲しい。
明治初頭の不平等条約で明治の国民が苦しみ、それを解消するのに20年以上もかかった。教育の結果は後遺症が百年に及び国家を危くする。当事者は己に負ける事で再び子孫に同様な苦しみを残してはなるまい。
外国との交際は国の安危に関し、交渉の能否は国の栄辱に係る、と言ったのは明治4年の欧米使節団長である。外交の本質を喝破している。日本人は奥ゆかしくて声をあげないから、中国とか韓国が巧妙に動いていると思う。国際化の時代こそ他国に主権を侮辱されないよう特に公的当事者は勇気と信念と気概を以って国民の尊厳を守ってもらいたい。さもなくば日本国が日本国でなくなる。国家とは物でも金でもない、国民一人一人の精神の支えで成り立つ。師表に立つ関係当事者の心の用い方一つで、国を亡ぼしあるいは国を興す。
それは心の持ち方の公と私との差から起こる。「一心以って邦を喪うべく、一心以って邦を興すべし。只だ公私の間に在るのみ。(近思録) 

鳥取木鶏クラブ 代表世話人 徳永圀典