10月--今日の格言・箴言17 西郷南州の手抄言志禄
鳥取木鶏クラブでは、現在江戸時代の碩学・佐藤一斎先生の言志禄を毎月学んでいる。今月は、西郷南州の手抄言志禄一〇一ヶ条の中から三十一を選んでみたい。

言志禄
1日
凡そ事を作すには須らく天に事うるの心有るべし。人に示すの念有るを要せず。-言志禄第3条- 天に仕える謙虚な気持ちで、俺はこんな立派な仕事とか他人にひけらかすサモシイ根性はよくない。
2日 当今の毀誉は懼るるに足らず。後世の毀誉は懼るる可し。一身の得喪は慮るに足らず。子孫の得喪は慮る可し。-第89条- 辺りの人たちから悪く言われようが賞められようがいちいちビクビクするな。それより死んでから批判される方が恐ろしい。いま損しようが得ししようがそんなことは子孫に迷惑かけることをしてはならない。
3日 聖人は死に安んじ、賢人は死を分とし、常人は死を畏る。-第132条- 聖人は死を超越しているから生死に対して心を患わされない。賢人は生死は生まれてきたからにし避けられないと達観しているから死は当然と思っている。一般人はただひたすら死ぬことを恐れている。死ぬときが来れば死ぬ。
4日 博覧強記は聡明の横なり。精義入神は聡明の竪-じゅ-たり。-第144条- 人格の横軸は博覧強記。縦軸は精義入神即ち天道を探求してその真義に入ること。学をひけらかさず。
5日 意-こころ-の誠否は、須らく夢寝中に於いて之を験すべし。--第153条- 誠で自分の心が正常かどうかは夢で自分を験すがよい。
6日 妄念を起さざるは是れ敬にして、妄念起らざるは是誠なり。
-第154条-
敬は言動を慎み他人を尊敬するというほかに妄想のない心境の意味がある。くだらいみだらな考えを起こさないのが敬、起こらない、おきないのが誠である。又、誠は「中庸」の根本思想で天の道を言う。
7日 漸は必ず事をなし、恵は必ず人を懐く。歴代の姦雄の如きもその秘を窃む者あれば一時だも亦能く志を遂げき。畏る可きの至りなり。-223条- 仕事は急がすゆっくりやって達成できる。ケチケチしないで人に恩恵を施せば人心が掴める。然し歴史上の極悪人物でこの漸と恵を使用し一時的に欲望を達成した例もあり恐ろしいことだ。
8日 匿情は慎密に似たり。柔媚は恭順に似たり。剛復は自信に似たり。故に君子は似て非なる者を悪む。-224条- 感情を内に秘め外に露骨に現さぬといかにも慎む深く見える。物腰が低く媚びるように見える態度は恭順で物静かに見える。強情で横車を押す態度は自信に溢れたように見える。然し君子は似て非なるものを最も嫌う。
言志後禄
9日
自疆不息の時候、心地光光明明なり。何の妄念遊思有らん。何の嬰累かい想有らむ。-第3条- 我々は独り居て何かに取り組んで励んでいる時はつまらない考えや遊び心が起きない、充実感を覚える。煩わしいことはない。
10日 誘掖-ゆうえき-して之を導くは教の常なり。警戒して之を諭すは教の時なり。躬行して以って之を率いるは教の本なり。言わずして之を化するは教の神なり。抑えて之を揚げ激して之を進むるは教の権にして変なるなり。教も亦術多し。
-第12条-
間違ったら戒めるが時宜に適う事。教師自ら先頭に立ち範を垂れ子弟に見せる事。口うるさくししなくてもついてくれば本物。抑えたり持ち上げ励ましは必要。現場の感覚こそ大切。悪童には断固として厳しく。
11日 閑想客感は志の立たざるによる。一志既に立ちなば百邪退聴せん。之を清泉湧出すれば旁水の渾入するを得ざるに譬う。第18条- 暇潰しにつまらない事を考えたり些細な事に心動かすのは自分に志が無いからだ。学を志す気持ちとなると雑念は吹き飛ぶ。哲学を持てば迷わない。
12日 寛懐にして俗情にさからわざるは和なり。立脚して俗情に墜ちざるは介なり。-第111条- 日本は個人主義を理解していない。群集心理に盲従して無批判に行動する。私は盲従しない態度が必要。
13日 「憤を発して食を忘る」とは志気是の如し。「楽しんで以て憂を忘る」とは心体是の如し。「老の将に至らんとするを知らず」とは命を知り天を楽しむこと是の如し。聖人は人と同じからず。又人と異ならず。-第9条- 学の為に発奮し寝食を忘れる。真実を知り一切の憂さを忘れる。勉学と修行に明け暮れて加齢を忘れる。さすが孔子は聖人であるが凡人も諦めぬことだ。
14日 一燈を掲げて暗夜を行く。暗夜を憂うことなかれただ一燈を頼め。-第13条- 提灯下げて暗い道を行く時暗さに心を奪われてはならぬ。頼むのは自分の持つ一燈のみだ。不透明な人生に置き換えて見よ。
15日 濁水も亦水なり。一たび澄めば清水となる。客気も亦気なり。一たび転ずれば正気となる。遂客の工夫は只だ是れ克己のみ。只だ是れ復例礼のみ。-17条- 気を失っては話にならぬ。実態のない幻のバブルから目覚めて国益中心に一日も早く出直したい日本だ。
16日 象山の「宇宙内の事は皆これ分内の事」とは、これは男子担当の志是くの如きを謂う。陳こうこれを聞いて射義を駐す。極めて是なり。-第38条- 長いものに巻かれない、権勢にも卑屈にならぬ、初志を貫くの不退転の軒昂たる意気込みこそ男子。
17日 人は地気の精。-77条- 宇宙の広大無辺の神秘に打たれれば我々の脚下にある大地に対して自分が完全無欠でないのと同様に空虚を覚え天の気がそれを満たしてくれるのを感じられる。
18日 満を引いて度に中れば発して空箭無し。人事宜しく射の如く然るべし。-第87条- 的を意識せず弓が自分の身体と一体になり無意識に放つと矢は的中する。弓道は技術でなく精神に昇華している。日本の心を取り戻せ、西洋の物質中心から解放されよう。
19日 刀の技、怯心を懐く者は衄し、勇気を頼む者は敗る。-第93条- 勝ちを急ぐな。勝とうとすると心身が硬直する。自在の心境を。
20日 我れ無ければ則ち其の身を獲ず。即ちこれ義なり。物無ければ則ち其の人を見ず。即ち是れ勇なり。-98条- 人間は無我となれば我が身あって我が身を忘れそこにには正大の気があるのみ。物欲無ければ眼中に人なくあるのは勇往邁進の勇気だけとなる。
21日 自ら反りみてりみて縮ければ、とは我れ無きなり。千万人と雖も吾往かん、とは物無きなり。-99条- 反省していささかも後ろめいたものが無いとは無我の境地。千万人と雖も吾往かんときは富貴も貧賎も威武も眼中にないから物にとらわれない状態である。
22日 三軍和せずんば以って戦を言い難し。百官和せずんば以って治を言い難し。書に言う、寅-つつしみ-を同じうし恭しきも協えて和衷せん哉と。唯だ和の一字、治乱を一串す。-123条- 和のあるなしで世の中の治乱が決せられると書経にある。
23日 相位に居る者は、最も宜しく公溥なるべし。明通ならざれば則ち偏狭なり。-126条- 大臣たる者は天下の事情に通じ、事務を処理するには公明正大でなくてはならぬ。一方に偏したり頑固では大臣たる資格なし。
24日 公私は事に在り、又情に在り。事公にして情私なる者之れ有り。事私にして情公なる者之れ有り。政を為す者、宜しく人情と事理:軽重の処を権衡して、以って其の中を民に用うべし。-162条- 許せないのは私欲だ。
25日 慎独の工夫は、当に身のちゅう人広座の中に在るが如きと一般なるべく、応酬の工夫は当に間居独処の時の如きと一般なるべし。-第172条- 独りの時に心がけなくてはならないことは人が沢山たて混んでいる広い座敷にいる気持ちでいたらよいし、応対する時には独り静かな所にいる気持ちでいたらよい。
26日 物、その好む所に集まるは人なり。事、期せざる所に赴くは天なり。-第189条- 天のもつ尺度は巨大である。
27日 人は厚重を貴びて遅重を貴ばず。真卒を貴びて軽率を尚ばず。-第246条- のろまや軽率では嫌われる。
28日 凡そ学を為すの初は、必ず大人たらんと欲するの志を立てて然る後に書を読むべきなり。・・-第14条- 知識だけに走ってはならぬ。志が先だ。
29日 知らずして知る者は道心なり。知って知らざるは人心なり。-第56条- 我欲を離れてこそ物が見える。
30日 「心静にして方に能く白日を知り、眼明にして始めて青天を識るを会す」とは、・・青天白日とは常に我に在り。宜しく之を座右に掲げて以て警戒と為すべし。-第57条- 青天白日は常に自分の前に在るが気が沈んでいるとつい忘れてしまう。気概を忘れまい。
31日 人心の霊なるは気を主とす。「気は体の充てるなり」。凡そ事を為すに気を以て先導と為さば則ち挙体失措無し。技能工芸も亦是くの如し 凡ては気の充実からだ。