美しい日本 むつき睦月
陰暦1月の異名、
睦月むつき、万葉集天皇から名も無き人までの歌集とは日本の国柄を遺憾なく示し世界に誇りうる。
犬養孝大阪大学名誉教授の万葉講座に通った、先生の、あの犬養調を思い出しつつ好きなものをランダムに。若い時には万葉歌は数十も記憶していたが、長い間離れてしまって今はとても。毎日、おさらいの勉強はとても楽しい。自分の勝手な感想を加えつつ取り組む平成15年元旦徳永圀典

1月元旦 初春の初子-はつね-の今日の玉箒-たまほうき-手に執るからにゆらぐ玉の緒 
大伴家持万葉集4493
孝謙天皇から賜わった箒は正倉院御物にある。養蚕に使用されたもの。正月3日の歌で気品ある荘重な調べと思う。
1月2日 あらたしき年始め初春今日降る雪いや重-し-け吉事-よごと。
大伴家持万葉集4516
鳥取市郊外国府町、因幡国司の家持は左遷されていた。跡に石碑がある。元旦歌らしくのののリズムは流暢で吉祥歌だが凄愴な調べを感じる。
1月3日 たまきはる 宇智の大野に 馬並-な-めて 朝踏ますらむ その草深野 
中皇命万葉集4
なぜか心が躍動する歌。宇智近くの山で感じたが地には霊がある。さわやかで気持ちいい歌。颯爽とした舒明天皇の狩場を思う中皇命。
1月4日 熟田津-にきたづ-に 船乗りせむと 月待てば 潮もかなひぬ 今は榜-こ-ぎ出でな 
額田王万葉集8 
天武天皇の奥さんの歌。私の心を躍動させる、男らしい歌。力強い、堂々とした指揮官の心の高揚であろう。実にいい歌だ。
1月5日 渡津海-わたつみ-の豊旗雲に 入日さし 今夜-こよひ-の月夜-つくよ- ま清-さや-かにこそ 
中大兄皇子万葉集15
正月だから茜色で豊かな大きい豊旗雲の歌、素晴らしい月夜を待つ、未来への祈りか。期待に満ち堂々としている。
1月6日 巨勢-こせ-山の つらつら椿 つらつらに 見つつ思はな巨勢の春野を 
坂門人足万葉集54 
椿の好きな私、音楽を聴いているような陶酔感がある。楽しい旅心、近くの椿温泉もいい湯だ。リズムがいい。
1月7日 あしひきの 山河の瀬の 鳴るなへに 弓月-ゆつき-が嶽-たけ-に雲立ちわたる 
柿本人麻呂万葉集1088
山之辺の道、巻向川のほとりから眺める度にこの歌を自然と口ずさむ。流動感、動的、律動、力感、ウワ-と心が動く。
1月8日 わがやどの いささ群竹-むらたけ-吹く風の  音のかそけき この夕-ゆうべ-かも 
大伴家持万葉集4291
群竹林に風がサット吹き抜ける、カサコソ、カサコソと。家の竹林もそうだ、実感がある。細かい心、家持は繊細な方だ。春の憂いか、好きなリズムと語感。
1月9日 つぎねふ 山城道-やましろぢ- 他夫-ひとつま-の 馬より行くに おの夫-づま-し 歩-かち-より行けば 見るごとに ねのみし泣かゆ そこ思-も-ふに 心し痛し たらちねの 母が形見と わが持てる まそみ鏡に 蜻蛉領巾-あきづひれ- 負ひなめ持ちて 馬替え吾背 作者未詳 万葉集3314 
反歌
 馬買はば 妹歩行-いもかち-ならむ よしえやし 石は履-ふ-むとも 吾-あ-は二人行かむ 
作者未詳 万葉集3317
夫婦愛の局地の歌。私は結婚仲人を十数回し、叉正賓スピーチには必ずこの歌を白扇に墨で書き、朗読し解説して新郎新婦に捧げた。30人となろうか。夫婦愛のほのぼのとした、読み人知らずの情愛歌
1月10日 もののふの 八十-やそ-おとめらが くみ乱-まど-ふ 寺井の上の 堅香子-かたかご-の花 
大伴家持万葉集4143 
かたくりの花のこと。私はこの花を登山中に探すのが好きだ。樹林の下に可憐で赤紫のきれいな花です。喜びに満ちた乙女の姿に相応しい。
1月11日 み吉野の 象山-きさやま-の際-ま-の 木末-こぬれ-には ここだも騒ぐ 鳥の声かも
山部赤人
万葉集924
昨年の夏に、吉野の宮滝の淵で泳いだ。ここから象山が見えた。その自然の中の赤い神社の境内で鳥の囀りを聴きながら昼をした風景が重なる。
1月12日 夏の野の 繁みに咲ける 姫百合の 知らえぬ恋は 苦しきものぞ 
大伴坂上郎女  万葉集1500
可憐、清純な小さい姫百合が林の下の繁みに密かに咲く姿は何とも言えない。登山中に発見するとみんな声を挙げる。この歌いい歌だね。
1月13日 桜田へ 鶴-たづ-鳴き渡る 年魚市潟-あゆちがた- 潮干にけらし 鶴鳴き渡る 
高市黒人 万葉集271
歌は音楽だ、空をきちっと把握し鶴と共鳴共感のリズムは凄い。心に響く伸び伸びした好きな歌だ。
1月14日 ひむがしの 野にかぎろひの 立つ見えて かへりみすれば 月かたぶきぬ 
柿本人麻呂 万葉集48
夏の午前4時半、毎朝登山して稜線に立つと東の空のかぎろひ、西には月が輝いている。高原の黎明だ。軽皇子を歌ったものだが、荒涼と寒気と凄愴の中だとは犬養先生の話。
1月15日 あかねさす紫野行き-むらさきぬゆき-標野-しめぬ-行き野守-ぬもり-は見ずや君が袖振る 
額田王万葉集20
天智天王の寵を得ながら前の恋人、大海皇子に心ひかれる調べ。明るく率直、明日の歌と関係深い。
1月16日 紫草-むらさき-の にほへる妹-いも-を 憎くあらば 人嬬-ひとづま- ゆえに 吾恋ひめやも 
大海皇子万葉集21
元妻の額田王に贈った歌。新緑の野に茜色の朝日の狩場のこの状況を想像するとスリル万点。
1月17日 淡海の海-あふみのうみ-夕波千鳥 汝-な-が鳴けば 心もしのに いにしへ思ほゆ
柿本人麻呂
万葉集266
心もしほれてしまう程、琵琶湖の夕波千鳥を見て昔を偲んだ人麻呂。私もこんな気持ちで古き良き日本を思い、いたたまれない。
1月18日 あおによし 寧楽-なら-の京師-みやこ-は 咲く花の 薫ふ-におふ-が如く 今さかりなり
小野老 万葉集328
九州の大宰府で歌ったらしいが、人口に膾炙した歌だ。本当に素晴らしい。故里は遠くにありて思うもの。
1月19日 大海に 島もあらなくに 海原の たゆたふ浪に 立てる白雲
作者未詳 万葉集1089
私は海を眺め潮騒を聴くのが大好き。地球の息吹を感じる。大海原、大宇宙、大自然への驚きの力感、感動がいいなあ。
1月20日 朝寝髪 吾は梳-けず-らじ 愛-うつくし- 君が手枕-たまくら 触れてしものを
作者不詳万葉集2578
さわってくださったのです、いとしいあの方が・・。好きだなんて一言も言わないのが日本流なの、それが優雅の情緒。
1月21日 士-おのこ-やも 空しかるべき 万代-よろずよ-に 語り継ぐべき 名を立てずして
山上憶良万葉集1089
家柄でない苦労人の憶良、伯耆守から東宮家庭教師。死の病で臥せた74歳の歌。人生を深く見つめて生き抜いた方らしい。
1月22日 若の浦に 潮満ちくれば 潟を無み 葦辺をさして 鶴-たづ-鳴き渡る
山部赤人万葉集919
満潮のリズム、律動が伝わってきますね。絵画を見るように。後世を風靡した歌。現実の和歌の浦は隔世の感あり。
1月23日 夕されば小倉の山に鳴く鹿は今夜-こよひ-は鳴かず寝-い-ねにけらしも
舒明天皇万葉集1511
感情が細やかで格調高く調べの美しい歌。これは明日香の岡本寺あたりと。殆ど同じ歌--夕されば小倉の山に臥す鹿は今夜は鳴かず寝ねにけらしも 1664 雄略天皇がある。
1月24日 春の野に菫採みにと来し吾ぞ 野をなつかしみ 一夜寝にける
山部赤人万葉集1424
恋愛という人もある歌だが自然に親しむ赤人の心が可憐な菫にピッタリ。天平の風雅、自然への陶酔、美の心。個性と感受性高い歌。
1月25日 一つ松 幾夜か経ぬる吹く風の 声の清-す-めるは年深みかも
市原王 万葉集1042
17歳で急死の不幸な皇子の歌。年老いた松の声を聴くようだ。自然の声で、悲しいまでの細く高い調べ。
1月26日 うちなびく 春来るらし 山の際-ま-の遠き木末-こぬれ-の咲き行く見れば
尾張連 万葉集1422
いよいよ春がきたらしい、この季節は私の最も好きな季節。1月は春はまだまだ遠い。
1月27日 ひさかたの天道-あまぢ-は遠しなほなほに家に帰りて業-なり-を為-し-まさに
山上憶良 万葉集801
星雲の志へは遠い、簡単でない、家業をしなさい、おおそれた事はしないでと、惑える心を返さしめる歌通りの憶良だ。
1月28日 敷島の 日本-やまと-の国は 言霊のたすくる国ぞ まさきくありこそ
柿本人麻呂 万葉集3254
言葉には霊魂があるから生きている。良い事を言えば良い事実現、悪い事を言えば悪事。言葉が日本を助けてくれる良い国の日本だ。万葉は良いことをいうようにしている。
1月29日 山高み 白木綿花に-しらゆふばな- 落ちたぎつ 滝の河内は-かふち- 見れど飽かぬかも
笠金村 万葉集909 
昨年泳いだ吉野の宮滝の淵や急流の川瀬に多くの人々が屯していたのを思う。昔はもっと滝も凄く奔流して飽かず楽しんだ、古代も現代も人間模様に変わりはない。
1月30日 多麻河-たまがわ-に さらす手作り さらさらに 何ぞこの児のここだ愛-かなし-き
東歌 万葉集3373 
多摩川で手織り布を川で晒す、多分藍の絣を着た乙女であろう、水はサラサラ流れ歌なぞ口ずさんで、かわいい、たまらない初々しさ。
1月31日 春の苑 くれないにほふ 桃の花 した照-で-る道に 出で立つをとめ
大伴家持 万葉集4139
来年は因幡から京の都に帰えれる、妻にも会える、田舎住まいから解放される。艶麗な思慕の歌と犬養教授は言った。

ご閲覧を心から御礼申し上げます。閑話休題的に、一日一首の万葉歌はいかがでしたでしようか。どなたかご感想を教えて下さい。明日からは新しいものに取り組みます。平成15年1月31日 徳永圀典 kunistok@ncn-t.net