不良債権未処理は財務省に究極の全責任

私は、ここ10年間に渡り、日本海新聞の潮流コラムで諸悪の根源は大蔵省に在ると主張してきた。本ホームページでもしばしば発言してきた。権力的な、報復的な、強烈な行政指導の金融行政をやってきて銀行を、有無を言わせぬ、完全支配していた財務省が知らぬ顔とは許せぬ

平成15年4月15日付の読売新聞の特集「銀行株崩壊」に寄稿している、中里実、東大教授の主張が私の主張と全く同じであるので、ここにご披露する。

読売新聞 朝刊 「銀行株崩壊 3 」

テーマ  不良債権税制で支援を

寄稿者 東大教授 中里実氏 

大手銀行株の下落の背景には,世界の景気先行きに不透明感が強まっていることなど、様々な要因がある。その中でも、日本が今だに、銀行が抱える不良債権の処理にメドが立てられないことが大きいと思う。

その処理を促すには、税制による支援が不可欠だと強調したい。それが景気を回復させ、株価を上昇させる有効な方法ともいえるだろう。

最初に指摘したい点は、金融再生プログラムで問題視された「繰り延べ税金資産」をあまり厳格に認定し、圧縮すべきではないことだ。繰り延べ税金資産は、銀行が貸し倒れに備えて引当金を積んだ際に前払いした税金が、将来、還付されることを見込んで資本に計上されている。銀行による自己資本の過剰な、゛かさ上げ゛は防がなければならないが、繰り延べ資産を一気に圧縮すれば、多くの銀行は資本不足に陥り、銀行経営を揺るがす恐れが出てくる。

そもそも、銀行が不良債権を処理する際、税務当局が「損失」と認定するケースを極めて限定してきたためだ。

無税償却を容易に認めなかったことが、不良債権の処理を遅らせた大きな要因だと思う。

銀行が貸出先の経営破綻などに備えて積み立てる「貸し倒れ引当金」について、税務当局が損失と認定するのは、実務的にはかなり厳格な要件を満たす場合に限っている。銀行が「貸出先が債務超過の状況にある」ことを証明しようとして、税務当局を説得するには、金融庁が行う金融検査以上に厳格に証明するよう求められる。

旧日本興業銀行現みずほフィナンシャルグループが税務当局と争っている裁判のケースを考えて欲しい。興銀は1990年代に住宅金融専門会社?住専?に対して約3760億円ら上る債権を放棄したが、税務当局は損金算入を認めず、約1470億円を追徴課税した。興銀はこれを不服として訴え、現在も最高裁で係争中だ。

税制や当局の姿勢が不良債権処理を阻むカベになっている。銀行だけを特別扱いするのが良いとは思わない。だが、不良債権問題を放置すれば、金融システム、ひいては日本経済の根幹に深刻な影響を与える。

欧米の主要国は損金を認める基準がはるかに緩やかだ

ドイツやイギリスなど欧州の主要国では、原則は無税償却で、損金扱いを認めない有税償却は例外的なケースだ。アメリカでは、法的整理の手続きに入っていなくても、破綻の一歩手前の貸出先企業に対する不良債権の処理は全額、損失と認められる。

日本の税務当局が損失の認定に厳格な背景は、企業が納める法人税が所得税などと並んで主要な税収源になっている点にある。当局には「基幹税」は徴税を厳しくし、税収の確保を優先させる意識が強いためだ。

しかし、長期化するデフレ不況の影響で、法人税収が全税収に占める割合は、1981年度の30.5パーセントから20年後の2001年度には21.4パーセントまで落ち込んでいる。基幹税のあり方では、税務当局に発想の転換が求められる。

当局は、無税償却の範囲を大幅に拡大すべきだ。担保不足などで貸し出し債権の一部の返済が難しい場合には、返済不能部分の無税処理は少なくとも認めるべきだろう。

政府は財政難を理由に1992年度に凍結した「欠損金の繰り戻し還付」を復活させることも検討する必要がある。

この制度によって、企業は赤字欠損金を出した場合に、過去の黒字決算で支払った税金の還付を受けられる。

アメリカは、この制度を有効に活用してきた。80年代後半からの不良債権問題では、この制度の導入が解決に貢献した。その後も同時テロの影響による景気の冷え込みを防ぐため、2001ー2002年の欠損金は、通常2年間とか認められない繰り戻し期間を5年間に延長する大胆な措置を採用した。

赤字が出た場合に、翌年度以降に赤字の一部を繰り越して課税所得から控除し、利益を圧縮する「欠損金の繰り越し控除」の期間も日本は翌年度以降の5年間と欧米に比べて短い。アメリカは20年間、イギリスやドイツは無期限で認めている。日本も期間を大幅に延長すべきだ。

政府は、欧米の先例から、税制改革を通じた支援策が金融危機からの脱出に大きな効果を上げることを学ぶべきだ