美しい日本 長月・ながつき  古今和歌集3.
長月、秋の始まりであり愈々紅葉への序曲である。紅葉は気温と水分、日照の千変万化の組み合わせ、化学的要素により着々と準備しているのであろう。秋への序奏であるが異常気象の今年の紅葉はどのようなものとなるのであろうか。春に続き古今和歌集巻四 秋歌上を引用したい。平成15年9月1日 

1日 秋立つ日よめる
あききぬとめにはさやかに見えねども風のおとにぞおどろかれぬる
藤原敏行朝臣
著名な歌。賀茂川の河原の散策で詠んだ歌。
2日 河風のすずしくもあるかうちよする浪とともにや秋は立つらむ
紀貫之
賀茂川の散歩らしい。
3日 きのふこそさなへとりしかいつのまにいなばそよぎて秋風の吹く
よみ人しらず
初秋の田園風景。
4日 こひこひてあふ夜はこよひあまの河きり立ちわたりあけずもあらなむ
よみ人しらず
織女星になって詠んでいる。
5日 契りけむ心ぞつらきたなばたの年にひとたびあふはあふかは
藤原おきかぜ
彦星の心で詠んでいる。
6日 このまよりもりくる月の影見れば心づくしの秋はきにけり
よみ人しらず
秋は様々な物思いをさせる。
7日 物ごとに秋ぞかなしきもみぢつつうつろひゆくをかぎりと思へば
よみ人しらず
何事につけ秋は悲しい思いをさせられる。すべて終わりの時は物悲しい、人間も。
8日 あき萩も色づきぬればきりぎりすわがねぬごとやよるはかなしき。
よみ人しらず
秋は哀しいもの。萩は秋にふさわしいのはなぜか、あの可憐さか。
9日 おく山に紅葉ふみわけ鳴く鹿のこえきく時ぞ秋はかなしき
よみ人しらず
人里離れた奥山で紅葉踏みわけ歩む鹿の鳴き声を聞いてしみじみと秋を哀しく思う。
10日 ももくさの花のひもとく秋ののに思ひたはれむ人なとがめそ
よみ人しらず
紐解くで下紐を連想し情事を仄めかして美しい秋の花の咲き乱れる野に心を寄せている。心を寄せて戯れ遊ぶ、どうか誰も咎めてくれるな。
秋歌下11日 ちはやぶる神なび山のもみぢばに思ひはかけじうつろふもの
よみ人しらず
神な月時雨もいまだふらなくにかねてうつろふ神なびのもり--よみ人しらず
12日 秋風のふきにし日よりおとは山峰の梢も色づきにけり。
紀貫之
石山寺参詣り折。
13日 秋の夜のつゆをばつゆとおきながらかりの涙やのべをそむらむ
壬生忠嶺
白い露が色づけるのではない、雁が飛びながら流した血の涙が紅葉させたのだろうか。
14日 雨ふれどつゆももらじをかさとりの山はいかでかもみぢそめけむ
よみ人しらず
古今集は様々な歌を順にあげ変化持たせている。
15日 秋の菊にほふかぎりはかざしてむ花よりさきとしらぬわが身を
紀貫之
この世の無常を感じた歌
16日 佐保山のははその色はうすけれど秋は深くもなりにけるかな
坂上是則
秋の歌、三六歌仙のひとり。
17日 露ながらをりてかざさむきくの花おいせぬ秋のひさしかるべく
きのとものり
秋の老いることがないように。
18日 たつた河もみじば流る神なびのみむろの山に時雨ふるらし
よみ人しらず
みむろの山は三輪山。
19日 こひしくば見てもしのばむもみじばを吹きなちらしそ山おろしのかぜ
よみ人しらず
秋を思う深い気持ち。
20日 神なびみむろの山を秋ゆけば錦たちきる心地こそすれ
ただみね
日本の秋の美しさは連綿と
21日 み山よりおちくる水の色見てぞ秋は限りと思ひしりぬる
おきかぜ
秋の終わりを感じた歌。
22日 年ごとにもみぢばながす竜田河みなとや秋のとまりなるらむ
紀貫之
秋の終わりを歌った。
23日 ゆうづく夜をぐらの山になくしかのこえのうちにや秋はくるらむ
紀貫之
鹿の声の中に秋の暮れるものを感じたのか
24日 道しらばたづねもゆかむもみじばをぬさとたむけて秋はいにけり。
みつね
去る秋をしみじみと惜しむ。秋最後の歌
25日 もみぢばは袖にこきいれてもていでなむ秋は限りと見む人のため
そせい法し
都の人に美しい紅葉を見せてやろう。
26日 山河に風のかけたるしがらみは流れもあへぬ紅葉なりけり
はるみちのつらき
志賀への山道で詠う。
27日 見る人もなくてちりぬるおく山の紅葉はよるのにしきなりけり
紀貫之
奥山で散る紅葉を歌う
28日 わがきつる方もしられずくらぶ山木々のこのはのちるとまがふに
としゆきの朝臣
木々の暗い山々。
29日 秋風にあへずちりぬるもみぢばのゆくへさだめぬ我ぞかなしき
よみ人しらず
紅葉の葉と同じ自分の人生を歌う
30日 おく山のいはがきもみぢちりぬべしてる日のひかり見る時なくて
藤原関雄
岩崖の日に当たらぬ紅葉と自分の不遇を重ねた歌。