日本海新聞 潮流コラム寄稿 平成16年1月3日



鎮守の森

新年おめでとうございます。

神さびた古杉の林立する鎮守の森は森閑として、清々しく冷気もあり、緊張を覚えつつも、心に安らぎと平安を覚えます。森の奥に鎮座まします神様にお祈りを捧げられた事でしよう。

「なにごとのおわしますかは知らねどもかたじけなさに涙こぼるる」 と西行も歌っています。

天地自然、万物に神が宿るという日本人の素朴で大らかな宗教心、連綿と続く、かたじけないという心情は民族の心です。日本人は2千年以上前からこの鎮守の森を心のふるさと、として鎮守の森に祭られている氏神様を代々守り続けています。

神道の基本原理は、村落共同体が夫々に神々を祭り自然を崇拝し豊作と永遠の繁栄を祈ることです。豊作と村の安全と繁栄を祈るのが神社の祭りで人々の心に村落共同体の一体感・連帯感を養ってきました。

ゴッドという一神教のイスラム教とかキリスト教とは違う日本の神様です。感謝の神であり一神教の神のように排他的ではありません。世界的に自然保護が叫ばれる現代ですが、日本人は2千年来自然を大切にしてきています。

山形県の月山神社に、漸く登りつめ大古杉の中に神さびた神社が見えた途端、霧が一面に立ち込めた事があります。神が現前されたような、神に触れたような感動を私は忘れません。

「神道の髄を見たるかみ社に霧立ちたるは神たちませる」 と思わず呟きました。

これは私だけではないのです。昭和24年世界的な歴史学者アーノルド・トインビーが初めて伊勢神宮を参拝した時の言葉があります。

「この聖地において私は、すべての宗教の根底的統一性を感得する」として、神道こそ地球人類の危機を救う地球宗教になると予言しています。「戦後、日本人は近代化の道を邁進してきたが、その見返りとして心理的ストレスと絶えざる緊張にさらされている。それは産業革命がもたらした、まぬがれない代価である。ところが神道は、人間とそのほかの自然との調和のとれた協調関係を説いている。日本国民は、自然の汚染によってすでに報いを受け始めているが、実は神道の中にそうした災いに対する祖先伝来の救済策を持っているのである」と。

物質文明の避けられない災いを救う宗教であると言っているのです。神道の本質を突いています。社会学者エマーソンも「森の中に神聖がある」と言いました。

この鎮守の森、新幹線でもローカル線でも、高速道路を通っても、ああ、あれは鎮守の森だと思われる森が全国到る所にあります。単なる神社や森ではなく鎮守様は世界的に注目されています。日本の鎮守様は日本各地の中心で森と緑と水のシンボルといえます。水と緑は人間の「いのち」を支えるものであり、その水と緑を崇める神道こそ地球規模の宗教だと言ったトインビーの予言は立証されそうです。

私はこの「日本の原理」こそ21世紀の地球を救う宗教だと確信しています。欧州は放牧のために早くから原生林を失い人工植林に努めていますが、日本の社叢を見て、祖先の賢明さに敬意を表すると言った外人もいます。ギリシャのエーゲ海の色はキレイですが海は死んで魚はいません。森林がないからで、森枯れは海枯れです。朝鮮半島とか中国大陸には植福の思想がありませんから森林は伐採したままです。

森林が無くなると文明は滅びると言う学者もおります。中近東あたりもそうでした。かってナイル川を支えた豊かな森林は古代エジプト文明を築きあげましたが伐採が進み砂漠化しました。中国の黄河文明の延長線上にある現今中国も砂漠化が激しく進んでいます。

伊勢神宮は300年先の遷宮用ヒノキの苗を植えています。日本の植福の思想は生きています。21世紀最大の問題は世界の水不足で、食料の60%を輸入している食糧は水そのものの輸入であり、日本は水の輸入大国で既に外国で批判が起きています。

鎮守様が各村にあるというのは古代日本人の素晴らしい叡智であり大切に守り残したい日本人の精神拠点でもあります。新年にあたり改めて先祖の叡智を深く噛み締めようではありませんか。

鳥取木鶏クラブ代表世話人 徳永圀典