美しい日本 平成16年1月皇后陛下の御歌
何年も前から皇后陛下は、超一流の歌人であられると思っていた。御歌の品格と、滲み出るお優しさ、格調の高い大きい広がりの上の知性に圧倒される思いである。日本の歴史の中でも、現今世界の王室の中でも、美智子皇后様は格段に皇后として秀でたお方であり、歴史に残る名皇后として語り継がれるであろう。正月にあたり、ごく一部をご披露する。私は皇后陛下のご母堂、正田冨美様のあの謙虚なお姿ーー芝生の草取りの背中に潜むわが子皇后・美智子への深い、優しい思いと憂い、又夫妻してのあの無私と慎ましさ、控えめさに感極まる思いがしていた。クリスチャンでありながらご葬儀は神道形式でなされた、この子への深い哀しいまでの思いに感動した。平成16年1月1日徳永圀典

1日 み車の運び静けし天足-あまた-らすみいのちにして還り給ひぬ 昭和天皇薨去され吹上に還御された時。
2日 子に告げぬ哀しみもあらむ柞葉-ははそは-の母清-すが-やかに老い給ひけり とても感銘させられる、深い。
3日 三輪の里狭井-さい-のわたりに今日もかも花鎮めすと祭りてあらむ 三輪の大神-おおみわ-ゆかりの花鎮めを思われて。狭井神社に、忍冬[すいかずら]百合草を奉る。
4日 ふり仰ぐかの大空のあさみどりかかる心と思し召しけむ 明治神宮ご鎮座五十年、明治天皇の御製を思われて。明治天皇御製「あさみどり澄みわたりたる大空の広きをおのが心ともがな
5日 慰霊地は今安らかに水をたたふ如何ばかり君ら水を欲-ほ-りけむ 硫黄島で岩盤の地下壕で焼けるように喘ぎつつ抗戦した人々のお心を詠まれた。
6日 -こと-の葉となりて我よりいでざりしあまたの思ひ今いとほしむ 文化の日御兼題。この深いお心は察して余りある。
7日 去年-こぞ-の星宿せる空に年明けて歳旦祭に君いでたまふ
ご神事で国の安寧をお祈りになる天皇陛下のお姿。
8日 み空より今ぞ見給へ欲-ほ-りましし日本列島に桜咲き継ぐ 現皇太子の和歌の師への挽歌という。
9日 稲妻と雷鳴の間をかぞへつつ鄙に幼くありし日々はも 皇后ご幼少の頃の思いでであろう。
10日 岬みな海照らさむと点-とも-るとき弓なして明-あか-るこの国ならむ 日本列島の夜の鳥瞰、実に大きい。歌会御題-海。
11日 白鳥も雁がねもまた旅立ちておほやしまぐに春とはなれり 昭和天皇御生誕の時に。気宇と気品とこの自然なる詠唱。
12日 新嘗-しんじゃう-のみ祭果てて還ります君のみ衣夜気冷えびえし 天皇の重要なお勤めの未明であろう。
13日 春草のはつはつ出づる土手のさま見むと春泥の道あゆみゆく 春の情緒がふつふつとする。
14日 ―ひひらぎーの老いし一木は刺―とげーのなき全縁の葉となりたるあはれ 何を思し召したのであろうか、老いのご感想か
15日

秋彼岸やうやく近く白雲の一つ浮かべる山の静けさ

静かなご心境がしのばれる、時の移り変わりへの眼差し
16日 この月は吾子―わこーの生−あーれ月夜―づきよーもすがら聞きし木枯の音忘れず 夜も寝ないでの育児を思いだされたのであろう。
17日

この国に住むうれしさよゆたかなる冬の日向―ひなたーに立ちて思へば

寒い国もあろう、灼熱の国もあろうにと。
18日

おのづから丈高くしてすがすがし若竹まじるこのたかむらは

若竹の清々しいさま、成長にお心を。
19日 短夜-みじかよ-を覚めつつ憩ふ癒えましてみ息安けき君がかたへに 昭和天皇の御病の後の日に
20日 子らすでに育ちてあれど五月なる空に矢車の音なつかしむ 育児時代への思いと鯉のぼり。
21日 窓にさす夕映え赤く外の面なる野に冬枯れの強き風ふく 冬の野の情景が絵画的に。
22日 白梅の花ほころべどこの春の日ざしに君の笑まし給はず 亡き高松の妃殿下のお印は梅。
23日 神まつる昔の手ぶり守らむと旬祭-しゅんさい-に発たす君をかしこむ 古きを守り親を親しむ事により常に魂が新しくなる、だから皇室は二千年続いた。ここに純なる日本の姿あり。
24日 音さやに懸緒-かけを--き-られし子の立てばはろけく遠しかの如月は 現皇太子加冠の儀、万葉の大歌の趣きある。
25日 木犀の花咲きにけりこの年の東京の空さやかに澄みて 爽やかな、爽やかな空を思わせる。
26日 長き年目に親しみし御衣-みころも-黄丹-わうに-の色に御代の朝あけ 大嘗祭の朝であろう黄丹は天皇の色。
27日 ともどもに平--たひーらけき代を築かむと諸人のことば国うちに充つ 平成の代がわり。
28日 いつの日か森とはなりて陵を守らむ木木かこの武蔵野に 武蔵野陵に詣でられて愛樹植えられた折。
29日 かの家に幼子-おさなご-ありて健やかに育ちてあらむ鯉のぼり見ゆ つつましい日本的風景。
30日 とつくにの旅いまし果て夕映ゆるふるさとの空に向ひてかへる 日本の夕日が見えた飛行機からであろう。
31日 日本列島田ごとの早苗そよぐらむ今日わが君も御田にいでます このような元首が世界にいない、これが日本の天皇の姿。世界に誇り得る。