平成16年2月--今日の格言・箴言21 近思録 

経営者から官僚まで戦前のリーダーが愛読した古典であり私も愛読した。渋沢栄一の資料館に額がある。「順理則裕」、これは近思録の「順理則裕、従欲惟危」、理に従えば則ち裕かなり。欲に従えば惟れ危うしの意である。道徳と利益追求の両立が望ましい、余りにもアメリカ式市場経済に席捲されると日本の良さが消滅する。

1日 根本はすべからくこれ先ず培養すべく、然る後に趨向を立つべし。趨向正しければ、造る所の深浅は、即ち勉むると勉めざるとに由る。
基礎を固め、方針を定める。あとは努力のみ。達成するかしないかは、勉めるかどうかに由る。成功は志と勤の二つ次第。
2日 胆は大ならんことを欲し、心は小ならんことを欲す。智は円ならんことを欲し、行いは方ならんことを欲す。 「大胆且つ細心」、「智に働けば角が立つ」は偏よらず。「行動には折り目」、即ち原理原則はキチンと守る。
3日

弘にして毅ならずんば、即ち立ち難し。毅にして弘ならずんば、即ち以ってこれに居るなし。

組織のリーダー或は然るべき人物を目指すなら「弘毅」即ち「高い見識と意思力」が必要。

4日

今の学をなす者は、山麓を登るが如し。その−いりーなるにあたっては闊歩せざるなし。峻処に到るに及んですなわち止む。すべからくこれ剛毅果敢にして以って進まんことを要すべし。

−いり―― 道がうねり続く平坦な場所から峻拒するような山にさしかかる時こそ、一大勇猛心を奮い起こして進まねばならない。それには断固やり抜く「剛毅果断」なる精神を普段より鍛錬が必要。
5日

学ぶ者はすべからくこれ実を務むべし。名に近づくことを要せずしてまさに是なり。名に近づくに意あるときは即ちこれ偽なり。大本すでに失す。さらに何事をか学ばん。名のためにすると利のためにすると、清濁同じからずと雖も、然れどもその利心は即ち一なり。

名が知られているのは単なる有名人、達人とは言えない。達人とは実質的内容を備えて義に則って行動する、人の意見をよく聞き、謙虚であって相手の感情を害さない。義とは道であり「利や功」を度外視してかからねば大きな仕事はできない。

6日

君子の学は必ず日に新たなり。日に新たなる者は日に進むなり。日に新たならざる者は必ず日に退く。いまだ進まずして退かざる者あらず。

日に新たに自分を磨いて行くしかない。「三国志」にある、「士、別れて三日なれば、まさに刮目―かつもくーして相待つべし。三日で変化あるくらいの自己練磨をという。

7日

学ぶ者は大いによろしく志小に気軽かるべからず。志小なれば即ち足り易く、足り易ければ即ち由って進むなし。気軽ければ即ちいまだ知らざるを以ってすでに知れりとなし、いまだ学ばざるをすでに学びたりとす。

志が小さい、気持ちの浮つき、これは学問の二大禁句。

8日 およそ一物上に一理あり。すべからくこれその理を窮致すべし。理を窮むるもまた多端なり。或は書を読みて義理を講明し、或は古今の人物を論じてその是非を別ち、或は事物に応接してその当に処す。みな理を窮むるなり。

朱子学では人間形成の基本を「窮理」即ち理を窮めることに求めている。「理」とはあらゆる事物の根本に備わる根本原理でありそれを一つ一つ窮めて行くことが「窮理」である。これを「格物到知」といい雑誌「到知」即ち木鶏クラブの基本理念である。学ぶのは読書だけではない、広く人間現象に関心を持つ、全力で問題に取り組む事が学ぶ事に通じる。これが窮理である。

9日

書は多く看るを必せず。その約を知らんことを要す。多く看てその約を知らざるは書肆―しょしーのみ。

書物のポイントを把握せよと言うこと。某女が「菜根譚」を2年で10回読んだ、会う度に人間がしっかりして、へんにメソメソが無くなり背骨がしゃんとしているのを発見した。古典はこんなにも人間を変える。と。

10日

およそ、史を読むには、ただに事迹―じせきーを記するを要するのみならず、すべからくその治乱安危、興亡存亡の理を知るを要す。

史とは歴史である。「興亡の理」を知ることが大切という。戦後の日本人は国史すら読まないから浮き草のようになっている。

11日

言語を慎んで以ってその徳を養う。事の至近にしてかかわる所至大なる者は、言語飲食に過ぐるはなし。

修養は@言語を慎んでその徳を養うA飲食を節してその体を養う。普段の発言は慎重、然し主張すべき処はちゃんと主張する。これが皆無なのが日本外交。

12日 人を動かすこと能わざるは、ただこれ誠至らざればなり。事に於いて厭倦―えんけんーするは、みなこれ誠なき処なり。

誠意がないから人を動かせない、誠がないと自分自身にも嫌気がくる。

13日 人心常に活なるを要―もとーめば、即ち周流して窮まることなく而して一隅に滞らじ。

心が常に活き活きと働くと、あらゆる対象にめぐり流れて行き、一隅に停滞しない。旺盛な関心、は常に心を「活」状態にしておかなくてはいけない。

14日

学ぶ者はすべからず恭敬なるべし。ただし拘迫ならしむべからず。拘迫せば即ち久しく難し。

いかめしさ、厳しさは「敬」そのものではない。然しそこから入るべき。敬は本来「心の持ち方」であるが外面から入ることも重要。容貌、態度を引き締めることが大事。恭敬とは、慎み深くして、我が侭に振舞わない、ということ。

15日

学問の道は他なし。ただそれ不善を知らば、即ち速やかに改めて以って善に従わん。

過ちに気付いたらただちに改めることだ。そして、肝心なことは、同じ過ちを二度と繰り返さないこと。

16日 怒りを治むるは難しとなす。懼れを治むるもまた難し。己に克たば以って怒りを治むべく、理を明らかにせば以って懼れを治むべし。

冷静な判断力を失うと怒りとなる。些細な事で理性を失うようでは是非の弁別がない。理とは人間世界を貫徹している根本原理である。これを窮めれば見えないものも見えてくる。何も懼れる必要がなくなる。

17日

上を責め下を責め、而して中自ら己を恕するは、あに職分に任―たーうべけんや。

上司や部下を責め自分に厳しさが欠けてどうして職責を果たせるか。自分に厳しく人には寛容にである。

18日

己を罪し躬を責むるはなかるべからず。然れどもまたまさに長く留めて心胸に在らしめ悔いをなすべからず。

自分を責めるのはいい、反省は大いに必要。いつまでも思い悩んでいるのはかえってマイナスでもある。厳しく反省したら、あとは忘れ去って新しい事態に対処すべきである。

19日

正しからずして合せば、いまだ久しくして離れざる者あらず。合するに正道を以ってせば、自ら終に叛くの理なし。故に賢者は理に順って安んじ行い、智者は幾を知りて固く守る。

離反してしまうのは正しくないやり方で結びついたから。次の三つが不正に近づかない正道。@動機A目標B方法。

20日

君子困窮の時に当たり、すでにその防慮の道を尽くせども、免るるを得ざるは、即ち命なり。まさにその命を推致し、以ってその志を遂ぐべし。

様々な手立てを尽くしても結局困窮に陥ることを免れ得ないのは、そこに「命」が作用しているからである。君子は「命」の働きを十分自覚しておかなくてはならない。

21日

人の患難に於ける、ただ一個の処置あり。人謀を尽くすの後、かえってすべからく泰然としてこれに処すべし。

困難に直面した時の対応はただ一つだ。あらゆる手立てを尽くした上で、あとは泰然として対処すること、これである。

22日 天下の事、大患はただこれ人の非笑を畏る。車馬を養わず、粗を食し悪しきを衣、貧賎に居れば、みな人の非笑を恐る。知らずまさに生くべくんば即ち生き、まさに死すべくんば即ち死し、今日の万鐘は明日これを捨て、今日富貴にして明日飢餓するもまた憂えず、ただ義の在る所なるを。

他人から嘲笑されないか、それを恐れる気持ちが人生の大きな障害となる。粗末なものを食べて貧しい生活や粗末な衣類は嘲笑されないかと気になる。だが、生きる時は生きる、死ぬ時は死ぬ。明日はさらりと棄てる覚悟をして常に義で生きる。

23日

古より泰治の世は、必ず漸く衰退に至る。蓋し安逸に狃習―じゅうしゅうーし、因循して然るに由る。

古来より泰平の時代に入ると必ず衰退に向かっている
24日

法立ちて能く守れば、即ち徳久しかるべく、業大いなるべし。鄭声侫人は能く邦をおさむる者をしてその守る所を喪わしむ。故に放ちてこれを遠ざく。

法とは規律、規範。やっていい事と、やって悪い事とのケジメである。これがなかったら、どんな組織でも、おかしいこととなる。
25日

人を管轄するにもまたすべからく法あるべし。いたずらに厳しきは事をなさず。

人を使うにもそれなりの使い方がある。

26日

人心の従う所は、多く親愛する所の者なり。常人の情、これを愛すれば即ちその是を見、これを悪めば即ちその非を見る。故に妻孥―さいどーの言は、失すと雖も多く従い、憎む所の言は、善なりと雖も悪となす。

人間し親しい者や愛する者の言葉に左右され易い。愛していれば相手のいいとこだけ見ようとするし、嫌っていれば相手の悪いとこだけ見るものだ。これが人情だ。妻子の言葉は間違っても聞き入れるし、嫌いな相手はまともな事でも従わないものだ。家庭に外の事を入れないのが肝要。

27日 古より能くその君を諌むる者は、いまだその明らかなる所に因らざる者あらず。故に訐直強頸―けっちょくきょうけいーなる者は、おおむね多く忤いを取り、温厚明弁なる者は、その説多く行わる。

諫言はいつの時代も難しい。ずけずけ直言する人間は、反発を買い失敗する。おだやかな態度で道理を説く人間は、割合成功率が高い。諫言でも相手を攻め立てるだけでは最低だ。

28日

人、欲あれば即ち剛なし。剛なれば即ち欲に屈せず。

剛に近い言葉に毅がある。剛は攻めの積極的なつよさ、毅は守りのつよさ、であろうか。剛も極端にはマイナスとなる。

29日

富貴にして人に驕るは固―もとーより不善なり。学問して人に驕るもまた害また細ならず。

上に立つ人こそ謙虚であれ。大いなるもの程、宜しく下―しもーとなるべしである。さすれば万事巧くいく。