鶏インフルエンザ事件に思う

浅田農産の会長夫妻が自殺、とのニュースを昨夜遅くTVで聞いて、いたたまれない気持ちになった。

隠そうとする意図があったかどうかはともかくとして、発覚するまでの1週間は大変な逡巡があったと思う。会社の経営や従業員のこと、ご本人は同業協会の幹部をされていたというから地位や名誉のこと、何よりも会社がなくなるという怖さ・・・。我が身に置き換え、果たして自分は勇気ある行動がとれるだろうかと思う。

無論、通報の遅れは指弾されるべき事であり、弁解の余地はない。

しかし、1週間の内に自ら死を選ぶ必要があったのか。

私はこの間接原因はマスコミにありと思う。

マスコミは「正義の味方」である。悪に対して情け容赦ない。それ自体は正しい。しかし、記者会見等での罵声の場に慣れない当事者は適応できない。そして彼らの書く記事が更に当事者を追いつめる。たちの悪い嫌がらせが相次ぐ。そのくせ、記事はどの新聞・どのTVも申し合わせたように皆同じ。何の相違もなく、意見や分析は何もない。彼らは当事者を弄んでいるのではないかとさえ思える。ならば代表取材で十分である。

会長は付近に鴨が来ているのをみて「鴨が来ている。心配やなあ。」と言っていたという。会長は、何が一番危険か明確に判っており、故に大きな責任を感じていたのではないか。

鶏は病気と判れば一斉処分されるから殊更の危険はない。大きく取り上げられるのは、殺処分埋設という、普段見慣れない光景だからに過ぎない。本当に怖いのは、空気感染によって鶏(動物)から動物へウイルスが運ばれ、違う生体内の環境中で強力な病原性ウイルスに変異する事ではないか。変異を繰り返しながら人間に感染したら、人間同士が感染する新型ウイルスが出現し、ワクチンなどないから手がつけられない。

また、人間のインフルエンザは冬の乾燥時期に発生・流行するが、鶏の場合はどうなのだろう。ウイルスの発生に温度依存性があるのだろうか。野鳥や野生動物はこれからが活動期だが、気温が上がる前に野鳥や動物に二次・三次感染をすることが一番危険なのではないか。

気温も湿度も高いベトナムやタイで鶏インフルエンザが発生しているが、その後はどんな状況なのだろう。相互関連性の大きい大切な情報なのに何も報道がないからさっぱり判らない。判らないのであればまだ解明出来ていないことを正直に書くのが本当のマスコミではないか。

内部告発によって明らかになった事件は、東電の原発事故隠しがある。この時は東電の平岩元相談役や荒木元会長等、日本財界を背負ってきた蒼々たる人々が引責した。しかし、今回は一零細個人企業である。公私共々全ての事柄が経営者本人に降りかかる。受けるプレッシャは大企業の役員の比ではないだろう。失礼ながら大企業の役員は病院に逃げ込む手もある。

大企業の記者会見は、記者の想定される質問に対して、部署を動員して事前に回答を準備する。周到に準備する事で余裕が生まれる。今回はとてもそんな余裕はなかったであろう。

会見場に来るマスコミは皆、組織人である。形態は地方局や外注の派遣だろうが何だろうがとにかく組織人である。組織人と一個人。一対多数。「もし自分が養鶏場の経営者の立場だったらどう振る舞うか。」たとえ職務とはいえ、惻隠の情を持てないならば、マスコミ人とは何とヒューマニティのない人種であろうか。特に全国紙・全国ネット記者。現場記者の本音を聞いてみたいものだ。

私は通報が遅れ、二次感染を招き、社会に混乱をもたらした事を擁護するつもりは毛頭ない。だが今後の同種再発防止対策を確立する為にも、また零細個人企業の危機管理での教訓を得る観点からも、詳細な経過をはじめとする会長夫妻の貴重な証言が必要だったのだ。その機会は永久になくなった。

会長夫妻を死に追いやった責任の一旦はマスコミにある。そのことについて、どこかのマスコミが自覚し、一言でも触れているのだろうか。

マスコミによって白日の下に引きずり出され、無念の自殺をされた会長夫妻が哀れでならない。

それにしても、前日逮捕の佐藤某元議員のなんと醜く、薄汚れた厚顔であろうか。


平成16年3月10日 関東圏 鎌倉氏