平成16年3月--今日の格言・箴言22 菜根譚2さいこんたんー
我々は見通しの実に悪い混迷の時代に在る。経済偏重、自虐的日本史観の反省が彷彿として起きつつある。失ったものの大きさに気付いている現代日本人と言える。個人の人生を見直す上でも、この菜根譚は優れた「人生の書」と思える。ランダムに引用する。

1日 無事これ至福

この人生では、無理に功名、名声を求める必要はない。大過なく過ごせること、それが何よりの功名である。人と交わる時には、与えた恩恵に見返りを期待してはならない。人の怨みを買わないこと、それがなによりの見返りなのだ。

2日 初心を忘れない

事業が行き詰まり進退窮まった時には、初心に立ち返って失敗の原因を考えてみるがよい。事業が成功して既に頂上を極めた時には、潔く身を引くことを考えなければならない。

3日 沈黙は金

低い地位にいれば、高い地位についている者の危なかしさがよくわかる。暗がりにいれば、明るみにいる人間がすけて見える。じっと静かにしていれば、動き回っている人間の空しさが分かってくる。沈黙を守っていれば、多弁な人物の騒がしさが見えてくる。

4日 譲る

人情は移ろいやすく、世渡りの道はきびしい。だからこそ、険しい難所では一歩退いて道を譲り、楽に通れる所でも、三分は人に譲る心がけが必要。

5日 自分に勝つ 自分の心に打ち勝とう。そうすれば、あらゆる煩悩を退散させられる。先ず、自分の気持ちを平静にしよう。そうすれば、あらゆる誘惑から身を守ることができる。
6日 道理を守る 労せずして欲望が満たされるからといって、うっかり手をだしてはならぬ。一度手をだせば、ドンドン深みにはまりこむ。道理が貫けないからと言って少しでも後に退いてはならぬ。退けば、どこまでも後退を余儀なくされる。
7日 固い意志

相手が財産をふりかざしてくれば、こちらは「仁」で対抗する。相手が地位をふりかざせば、こちらは「義」で対抗する。君子は例え相手が上級者でも意のままには動かぬものだ。強い意志と固い覚悟をもってあたれば天地をも動かすことができる。これなら神様でも邪魔立てできない。

8日 誘惑と執着

修養により人格の向上を図るなら何物にも動じない木石のような心境が必要。なぜなら一度誘惑に負けただけで忽ち欲望の虜になるからだ。政治に志し世の為に働くには、何物にも囚われない雲水のような心境が必要。なぜなら、一度富貴に執着すると、忽ち堕落してしまうからである。

9日

不幸の源泉

なにが幸せかと言って、平穏無事より幸せなことはない。何が不幸かと言って、欲求過多より不幸なことはない。然し、あくせく苦労してこそ、はじめて平穏無事の幸せなことが分かり、心を落ち着けてこそ、はじめて欲求過多の不幸なことが理解できる。
10日 柔軟に

秩序が確立している時代なら、あくまで正義を貫いて生きよ。秩序が混乱している時代なら柔軟な処世を心がけよ。秩序が失われた末世においては、正義を貫きながらしかも柔軟な処世を心がけよ。対人関係でも、善人に対しては寛容、悪人に対しては厳格な態度で臨み、普通の人に対しては寛容と厳格の両面を使い分けなければならない。

11日

恩を売るな

人に恩恵を施す場合には、恩着せがましい気持ちを現したり相手に感謝を期待するような態度を見せてはならない。そうすれば例え米一斗の施しでも百万石の値打ちを生む。人に利益を与える場合には効果を計算したり、見返りを要求してはならぬ。そんなことをすれば、たとい百金を与えたとしても一文の値打ちもなくなる。

12日 分相応

人の境遇は様々であり、恵まれている者もあれば、恵まれていない者もある。それなのに、どうして自分一人だけ全ての面で恵まれる事を期待できるのか。自分の心もさまざまであって、道理に適っている場合もあれば適っていない場合もある。それなのに、どうして全ての人々を道理に従わせることができようか。

13日

足るを知る

贅沢な暮らしをすれば、どんなに資産があったとしても、心の満足は得られない。これでは、つましいながらも、ゆとりある暮らしをしている人に遠く及ばない。やり手の人は、あくせく苦労しながら、それでいて人々の怨みを買う。これでは、無能呼ばわりされながら、悠々とマイペースで暮らしている人に遠く及ばない。

14日

苦労は資産の元

苦労しているさなかにこそ喜びがある。時めいていると、とたんに失意の悲しみがおとずれる。

15日 自前が何より

徳望により得た富貴名誉は、野山に咲く花、自然に枝葉が生い茂る。功業により得た富貴名誉は、鉢植えの花、他所に移されたり捨てられる。権力により得た富貴名誉は、花瓶の花、根が無いから忽ちしぼんでしまう。

16日

本物は自然

本当に清廉であれば、清廉の評判など立たない。評判が立つのは、顕示欲が強い証拠である。本当に最高の技を身につけていたら、妙技など見せびらかさない。妙技をみせびらかすのは、未熟に証拠である。

17日

名も無く人間らしくが最高

名誉や地位を得ることが幸せだと思われているが、実は名誉もなく地位もない状態のほうにこそ最高の幸せがある。

18日

静を以って身を養う

せっかちで落ち着きがないのは燃え盛る炎のようなもの、周りの者を焼き尽くしてしまう。温情の無いのは冷たい氷のようなもの、みんなの心を冷え冷えとさせる。頑固で融通のきかないのは溜まり水や朽木のようなもの、いきいきした活気を失っている。こんな人たちはみな、成功も幸せも勝ち取れない。

19日

常に努める

暇な時でも時間を無駄にしない。その効用は多忙時に現れる。休んでいる時でも、ぼんやり過ごさない。その効用は仕事時に現れる。人目につかぬところでも、良心を欺かない、効用は人前に出た時に現れる。
20日

一隅を照らす人は国の宝

一般の庶民でも社会への奉仕を忘れなければ大臣宰相に勝る。高位高官でも権勢を傘に私恩を売るだけでは乞食と同じである。
21日

家庭の和

家族が過ちを犯した時、声をあげて怒鳴りつけるのもいけないし、黙って見てみぬ振りをするのもよくない。他の事にかこつけて、それとなく戒めるのがよい。それで効果が無ければ、時間をおいて、別の機会にまた注意を促すことだ。要は春風が氷を融かすように、おだやかな態度で臨む、これが家庭の和を持つ秘訣である。

22日

何事によらず

質素な人は派手好きから煙たがられる。きびしい人はだらしない人から嫌がられる。だからと言って、いささかも自分の信念を曲げてはならないが、同時にそれをむき出しにしないことだ。これが君子の生き方だ。
23日 楽は心身を蝕む

逆境ある時は、身の回りのものすべてが良薬となり、節操も行動も知らぬ間に磨かれていく。順境にある時は、目の前のものすべてが凶器となり、体中骨抜きにされても、まだ気付かない。

24日

静こそ!

最高に完成さされた人格は、少しも変わったところがない。ただ自然のままに生きているだけだ。
25日

極端は身の毒

口当たりのいい珍味はすべて腸を痛め骨を腐らせる毒薬である。ほどほどにしないと健康を損なう。快適な楽しみは、いずれ身を滅ぼし徳を失う原因である。ほどほどにしないと悔いを残す。

26日 忠恕

小さい過失はとがめない、隠し事はあばかない、古傷は忘れてやる。他人に対してこの三つのことを心がければ、自分の人格を高めるばかりでなく、人の恨みを買うこともない。

27日

忘れる

怨みは徳を施すことによって生じる。だから人に徳を施しても感謝を期待してはならない。徳も怨みも忘れてもらうのが一番だ。仇は、恩を施すことによって生じる。だから、人に恩を施しても感謝を期待してはならない。恩も仇も水に流してもらうのが一番だ。

28日

自分に忠実

信念を曲げてまで人の歓心を買おうとしてはならない。人からは煙たがられても、自分の信念は貫くべきである。

29日

慎独

細事の処理にも、手を抜かない。人目のないところでも、悪事に手を染めない。失意のときでも、投げやりにならない。こうあってこそ、初めて立派な人物といえる。

30日

変化の原理

下り坂に向かう兆しは最盛期に現れ、新しいものの胎動は衰退の極に生じる。順調なときには一層気持ちを引き締めて異変に備え、難関にさしかかったときにはひたすら耐え忍んで初志を貫徹しなければならない。

31日

人間はみな違う

人の欠点は、できるだけとりつくろってやらなければならない。むやみにあばきたてるのは、欠点をもって欠点を咎めるようなもので、効果はあがらない。頑固な人間に対しては、辛抱強く説得しなければならない。下手に感情的になつて突っかかるのは、頑固をもって頑固に対するようなもので、まとまる話もまとまらなくなる。