美しい日本歌 古今和歌集6 
           巻第九 羇旅歌  1日―17日

             巻第十 物名   18日―30日

1日 もろこしにて月を見てよみけるー安倍仲麿

あまの原ふりさけ見ればかすがなるみかさの山にいでし月かも

唐で月をみて奈良の三笠山を思い詠んだ望郷の歌。
2日 隠岐の国にながされける時にー小野たかむらの朝臣 わたのはらやそしまかけてこぎいでぬと人にはつげよあまのつり舟 漁に出る釣り船よ、大海原の島々めざして漕ぎ出たと都人には知らせてくれ。
3日 題しらず
読み人しらず

都いでて今日みかの原いづみ河かは風さむし衣かせ山

都をでて3日目,河風がさむく身にしむ、着物を貸して欲しいよ、この山よ。
4日

題しらず
読み人しらず

ほのぼのと明石の浦の朝霧に嶋がくれ行く舟をしぞ思ふ
舟の漕ぎだす情景に感慨が深い。 柿本人麻呂という人ありー
5日 あづまの方へ
ー藤原業平朝臣
唐衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬるたびをしぞ思ふ 都を離れて残した妻を思う。
6日 下総の国との中にある
すみだ河のほとりにて

名にしおはばいざ事とはむわが思ふ人はありやなしやと
藤原業平朝臣

業平の歌でも特に名高い
7日 題知らず
ー読み人しらず

北へ行くかりぞなくなるつれてこしかずはたらでぞかへるべらなる

夫婦と旅に出たが帰りは夫tがいない歌とか。

8日

あづまより京への途中にておと壬生よしなりが女―

山かくす春の霞ぞうらめしきいずれみやこのさかひなるらむ

春霞で都の方向が分からない。
9日 白山を見ての歌
みつね

きえはつる時しなければこしぢなるしら山の名は雪にぞありける

白山は雪にちなんでつけられた名という。
10日

東へまかりける時に
ーつらゆきー

いとによる物ならなくにわかれぢの心ぼそくもおもほゆるかな

別れ路の心細さを糸に例えた。

11日

かひのくにへ
ーみつねー

夜をさむみおくはつ霜をはらひつつ草の枕にあまたたびねぬ

旅寝と霜の幾夜の思い出。

12日

たぢまのくに
ー藤原のかねすけー

ゆふづくよおぼつかなきを玉くしげふたみの浦は曙けてこそ見め

豊岡を流れると豊岡川の河口。

13日

あまの河のほとりにて
在原なりひらの朝臣ー

かりくらしたなばたづめにやどからむあまのかはらに我はきにけり

枚方市禁野に流れている川
14日

ともに侍りて
ーきのありつねー

ひととせにひとたびきます君まてばやどかす人もあらじとぞ思ふ

織姫は一年に一度だから、その他には宿を貸すような男などあるまいと思う。

15日

朱雀院のならにおはしますときに
すがはらの朝臣―

このたびはぬさもとりあへずたむけ山紅葉の錦神のまにまに

宇多上皇の奈良に行幸された折。

16日

朱雀院のならにおはしますときに
ー素性法師―

たむけにはつづりの袖もきるべきにもみぢにあける神やかへさむ

たむけに幣の用意がないので袖を切って幣とすべきだか紅葉を堪能されている神は見向きもされないで袖を返されるであろうか。
巻十 物名
17日

うぐひす
藤原としゆきの朝臣

心から花のしづくにそぼちつつうくひずとのみ鳥のなくらむ

うぐひすを隠し詠んだ歌。うくひずー憂く乾ず。

18日

ほととぎす
ー藤原としゆきの朝臣

くべきほどときすぎぬれやまちわびてなくなるこえの人をとよむる

くべくほどー来るべき人。ときすぎぬれやー時期がすぎてしまったからか。ほととぎすを二度隠している。

19日

うつせみ
在原しげはるー

浪のうつせみればたまぞみだれけるひろはばそでにはかなからむや

空蝉、無常の象徴。
20日 返し
ー壬生忠峯―

たもとよりはなれて玉をつつまめやこれなむそれとうつせ見むかし

空蝉の返歌である。
21日

うめ
ー読み人しらずー

あなうめにつねなるべくも見えぬかなこひしかるへきかはにほひつつ

あなうーああ憂いことである。めにつねなるべくも見えぬかなー目には不変のようにも見えない。

22日 あふひ・かつら
ー読み人知らずー
かく許りあふひのまれになる人をいかがつらしとおもはざるべき あふひー二葉葵。
かつらー桂の木。
23日

すもものはな
ーつらゆきー

今いくか春しなければうぐひすもものははながめて思ふべらなり

もう何日も春は残っていないので、うぐひすもぼんやりと物思いにふけっているようだ。

24日 からもものはな
ーふかやぶー
あふからもものはなほこそかなしけれわかれむ事をかねて思へば

逢っているときから、物悲しい。

25日 たちばな
ーをののしげかげー

葦引の山たちはなれ行く雲のやどりさだめぬ世にこそ有りけれ

泊まる宿さえ定まっていないはかない世の中。
26日

をがたまの木
ーとものりー

みよしののよしののたきにうかびいづるあわをかたまのきゆと見つらむ

奔流に浮かび出る泡の消えるさま。

27日

やまがきの木
ー読み人知らずー

秋はきぬいまやまがきのきりぎりすよなよななかむ風のさむさに 有名人よりこの歌のほうがうまい。
28日 あふひ・かつら
ー読み人知らずー

かく許りあふひのまれになる人をいかがつらしとおもはざるべき

あふひー二葉葵。かつらー桂の木。

29日 あふひ・かつら
ー読み人知らずー

人めゆえのちにあふ日のはるけくばわがつらきにや思ひなされむ

人目をはばかるため、逢うまで長いのは薄情と誤解されるだろうか。

30日

くたに
ー僧正へんぜうー

ちりぬればのちはあくたになる花を思ひしらずもまどふてふかな

いずれ芥になる花だのに知らない蝶は花に戯れている。