日本海新聞 潮流寄稿 平成16年9月3日

通貨の本質

私はマネーの世界は「虚」であると本欄で屡々指摘している。
「通貨とは、そもそも非道徳なものであり、武器を使用せずして敵国からすべてを収奪することが出来る手段である。従って、通貨は「武器のない戦争」における最大の武器である」、これはアリストテレスの言葉である。

この10年間、マネーと言う虚の世界に於いて、日本は甚大なる国民資産を外資に収奪された。それは先の大東亜戦争の損失の比ではあるまい。その手段は、覇権的為替、株式、情報操作、そして表面には出ないが、政治的恫喝とであったと私は確信する。その勝利者は大覇権国で、国際基軸通貨国でもあるアメリカに他ならない。
その手段が、政治性を極めて高く帯びている通貨・為替である。通貨は近代戦争の強力な覇権的武器なのである。冷戦後、気がつけば世界の金融資産の三分の一を占める金融資産大国となった日本に冷戦勝利者のアメリカが総力をあげて対日金融戦略を仕掛け集中攻撃し続けた。

元々、マネー世界は「虚」であり、狩猟民族の長けたものである。農耕民族の勤勉で従順且つナイーブな日本人は、法律の裏を潜られ、幕末に膨大な金小判の国外流出の被害を受けたのと同根である。
国家の安全保障をアメリカに依存している日本の指導者は、冷戦後、分かっておりながら、国益に反すると知りながら、気骨ある合理的反論もしないまま、恫喝されてアメリカの意向に沿ったに過ぎまい。
それは小沢一郎氏が自民党幹事長時代にウルガイラウンド430兆円の公共投資を約束した頃からである。かくして10年前「第二の敗戦―マネー敗戦」により遂に日本株式会社は消滅し、多くの日本企業が市場経済の名の下にアメリカ資本の生贄となった。かくして、日本から米国へ還流した日本の預金や、金融緩和による日銀からのマネーが回りまわって米国資本となりアメリカのハゲタカマネーとして日本大企業の大株主となった。

今や日本の株式市場の覇権はゴールドマン・サックスを初めとする外資の意のままとなっていると見る。日本最大のゴルフ場オーナーはいつの間にかゴールドマン・サックスとなっているのが如実な事例である。元々巧みな彼らの国際情報操作で更に自在に日本マーケットを操作できる仕組みとなってしまった。
自国の安全保障を米国に依存しているから、自国のみの経済・金融・為替の安定など国益の徹底追求が不能なのである。この結果、冷戦中の高い「安全保障料」を支払ったのである。
ここに到るまでの責任は、政治家のみではなく国家中枢官僚もそうである。多くの国民は、10年前のマネー戦争が、理不尽で純粋に経済学では解明できないと知っていた。大マスメディアは、彼らのマネー操作手法の一つである「企業格付け」のお先棒まで担ぎ国民を煽動し、いまでも信奉している。メディアは、問題の本質を遂に解明しないままである。
かかる視点から、半世紀かけてEUを統合し、通貨を共通としたことは歴史的大偉業で、対米従属からの政治的、通貨的な米国依存の脱却を試みるもので、米ドルのシガラミ脱出の道を開いた。

米国に巨大な金融資産を保有する戦略無き日本は、何れ朝鮮半島が歴史と地勢学に従い昇竜中国の属領的となるのを既に見込んで反米韓国から米軍を撤退させる。我々数代前の先祖が、歴史的に最も恐れていた事態、即ち、玄界灘が18世紀の幕末以来、最悪の事態たる危険な国境ラインとなってしまうであろう。未来には朝鮮半島等大陸国家との対立すら予測が可能である。日本が大陸勢力の対峙国となる構図である。日本は通貨で完全にアメリカの薬籠中であり、更に地政学的に難しい立場となるが、米国以外の依存先はない。川口軟弱外交に見る如く、わが国は独立国としての体をなしていない。
その原因である陳腐で非現実的な押し付け憲法の改正もままならぬ日本は、根本的戦略や国家像を確立し得ないまま21世紀の荒海で漂流を始めている。通貨とて同様である。

(鳥取市)鳥取木鶏クラブ 代表世話人 徳永圀典