人間学事典「十八史略」B

 1日 近づき安い 東閤を開いて、もって賢人を延−ひーく。

東の大門を開いておき天下の人材を招きいれる。
水が清すぎては魚は棲めないのである。

 2日 欲深

内、多欲にして、外、仁義を施す。いかんぞ唐虞の治に効−ならーわんと欲するか。

「実は欲が深い癖に仁義面の体裁をする、今更尭・舜の真似をしても始らない」これは臣が専制的君主の漢の武帝に言った言葉。むっとしたが武帝はその臣を国の柱石に近いと誉めた。

 3日 冗談と真面目 朔もまた時に直諫して補益するところあり。

冗談のお笑いばかりの現今日本、時には真剣に諫言が必要。(朔は皇帝の傍役人)

 4日 もつれたものは

乱民を治むるは、乱縄を治むるがごとし。急にはすべからざるなり。

混乱を治めるには、もつれた縄をほぐすようなもの、急いでは解けない。もつれた紐を解くには、ひっぱらずに、ゆるめるものだ。

 5日 指導者の職分

宰相は細事を親―みずかーらせず。

現代と違和感があるが、本来はそうしたものだ。政治でも、せせこましいマスコミや野党が宰相らしくさせないでいる。
 6日 極端を避けよ

およそ治道は、その太甚−はなはーだしきものを去るのみ、

極端なものを排すねのが政治の要諦である。
7日 自分を曝ける

赤心を推して人の腹中に置く。

自分を曝け出して相手の心に飛び込む、それは強烈なものでなくてはなるまい。

 8日 動と静

われ天下を理―おさーむるに、また柔道をもってこれを行なわんとす。

柔よく剛をに勝ち、弱よく強に勝つは古代の教法である。動の後は静が必要である。
 9日 難しい部下

古より明王聖主は、必ず不賓の士あり。

素直に言うことを聞かない部下は上司にとりトゲのようでもあるが、寛大さも必要である。

10日 ひとかどの人間は

別れて三日、すなわち刮.目して相待つべし。

三日会わなかったら、ひとがとの人物は、よくよく目をこらして見ねばならぬ。その間に成長を遂げている。

11日 能力と適所

士元は百里の才にあらず。治中・別駕たらしめば、すなわちその騎足を展ぶるのみ。

県クラスの仕事では彼に向いていない、せめて州くらいの役なら能力才能を発揮するでしょう。やはり適材適所であろう。言うは安いが見極めは至難。

12日 対立したら

おのおの分界を保つのみ、細利を求むるなかれ。

対立していても夫々の分野を保つことが第一である。小さな利益にこだわって無駄な争いをすることはない。

13日 小さい物惜しみ 財の禍たるを知らば、何ぞ早くこれを散ぜざる。

小さい物惜しみが大きな損失を招く。

14日 五斗米 われあによく五斗米のために、腰を折りて郷里の小児に向かわんや。

サラリーマンだからと言ってペコペコするものかという反骨精神も必要。

15日 逆転の発想 民心に順いて義兵を興さば、禍を転じて福となさん。 禍は同次元ではマイナス、次元を変えればプラスになるということか。
16日 テストは正攻法で

われ自ら詐−いつわりーをなして、何をもってか臣下の直を責−もとーめんや。

自分が嘘をつきながら臣下に正直せよとは言えない。ペテンでは本当のものは生れない。

17日 民とトップ 君富みて国亡ぶ。

君主が富みすぎれば国は滅びる。北朝鮮の未来はこれだけで判定できる。

18日 治国平天下

一人をもって天下を治むるも、天下をもって一人に奉ぜず。

天下を安んぜんとせは、必ずまずその身を正すべし。企業でも同様である。

19日 韜晦の法

人、某−それがしーの面に唾すといえども、これを拭わん。唾は拭わざるも自ら乾かん。

自分の才能・本心・立場などを隠して他人に分からないようにすることを韜―とうかいーという。目立ちすぎて困る場合に誤魔化す世渡り法。

20日 本物の人格者

婁公は盛徳なり。われ容るるところとなること久し。

人に何かするときは相手に知らせてやりたいものだ。してやるという考えを捨てておけばお返しがなくても腹が立たない。

21日 目下にも礼を

二人進見するたびに、上すなわちこれがために起き、去るには軒に臨みてこれを送る。

出迎え、見送りに礼を尽すことは現代社会でも重視されている。

22日 怒るより怖い 怒る者は常の情、笑う者は測るべからざるなり。

怒るのは自然の感情だから本心もよくわかるが、笑っている者は本心が分かりにくい。黙っているはもっと怖い。

23日 人を見る目と心

正人は邪人を指して邪となし、邪人もまた正人を指して邪となす。人主のこれを弁ずるにあり。

心の真っ直ぐな人間は、曲がった人間を曲がっているという。然し、心の曲がった人間は、真っ直ぐな人間まで曲がっているという。これを見極めて正しい判断するのが上に立つ者の責任。
24日 いい顔 恩を己に帰せんと欲せば、怨みは誰をして当たらしめん。

相手に恩を着せようとするのはいいが、逆に怨まれるようなことをしなければならいときは、誰のせいにすればよいのか。いい顔ばかりはしておられない。

25日

人生古よりたれか死なからん。丹心を留取して汗青―かんせいーを照らさん。

人と生れて、昔から死ななかった者はいない。せめて、真心をこの世に留め汗青(歴史)に灯をともしたい。

26日 決断

大本は陛下の心にあり。

中国の話。初めは処女の如く、後には脱兎の如し。じつくり考えた後は断固実行が肝腎。

27日 知る

もし一たび姓名を知らば、身を終わるまで忘れず。知るなきにしかざるなり。

知るなきにしかず、情報過剰の現代にも大いに役立つ。

28日 治国平天下

一人をもって天下を治むるも、天下をもって一人に奉ぜず。

天下を安んぜんとせは、必ずまずその身を正すべし。企業でも同様である。

29日 生活安定

民の衣食をして余りあらしめば、おのずから盗をなさず。いずくんぞ法を重くするを用いんや。

人民の衣食が現代日本のように満たされると少年少女の万引きが常習化する。儒教的社会ならばの話。

30日 巨悪

豹狼―さいろうー、道に当たる。いずくんぞ狐狸を問わん

中央で山犬や狼が要路でのさばつているのを見過ごして、地方の狸や狐を調べたって、どうなるというのだ。現代的な話題でもある。