美しい日本歌 4月
        春の歌
  花・鳥・風景


1日
巨勢−こせーの椿

河上の つらつら椿 つらつらに
見れども飽かず 巨勢の春野は

春日蔵首老 巻1-56
つらつら椿 つらつらに、の快調、陶酔感に痺れる。

2日

 椿

巨勢山の つらつら椿 つらつらに 見つつ思−しのーはな 巨勢の春野を

坂門人足 巻1-54

3日

馬酔木

磯の上に 生−おーふる馬酔木を 手折らめど 見すべき君が ありといはなくに

大伯皇女 巻2-166
弟の屍の二上山に移送されたのを悼んだ歌。

4日


やなぎ

はるやなぎ かづらきやまに たつくもの たちてもいても いもをしおもふ
春楊 葛山 発雲 立座妹念

柿本人麻呂 巻11-2453 妻を思う歌。
5日

梅柳 過ぐらく惜しみ 佐保の内に 遊びしことを 宮もとどろに 

作者不明 巻6-949
梅や柳の見ごろの過ぎるのを惜しむのか。

6日

青柳

うちのぼる 佐保の川原の 青柳は 今は春べと なりにけるかも

大伴坂上郎女 巻8-1433
のびやかな春の足音が聞こえるようだ

7日

藤の花

藤波の 花は盛りに なりにけり 平城―ならーの京―みやこーを 思ほすや君

大伴四綱 巻3-330
大宰府から春日野の藤の花がちらついていたのか。

8日

わが行は 七日は過ぎし 竜田彦 ゆめこの花を 風にな散らし

高橋虫麻呂 巻9-1748
風に散って欲しくない気持は、いつも変わらない。

9日

ヨメナ

春日野に 煙−けぶりー立つ見ゆ をとめらし 春野のうはぎ 採みて煮らしも

10-1879
春野のヨメナを採んで煮るのは若さの習俗か。

10日

百合

道の辺―へーの 草深百合の 花咲−はなえーみに 咲−えーまししからに 妻といふべしや

7-1257

細道のやぶの中に草深百合を見出す喜びは格別だ。

11日

白木綿花

山高み 白木綿花に 落ちたぎつ 滝の河内―かふちーは 見れど飽かぬも

6-909

水の奔流は心が浮き立つ春である。

12日 −いはーつつじ

水伝ふ 磯の浦みの 石つつじ 茂−もーく咲く道を また見なむかも

2-185
谷の岸の石つつじが水面に映えるのは趣がある。

13日

玉藻

明日香川 瀬々の玉藻の うち靡き 情―こころーは妹に 寄りにけるかも

13-3267
朝夕み慣れた人であろうか。

14日

百済野の 萩の古枝−ふるえーに 春待つと 居りし鶯 鳴きにけむかも

山部赤人 巻8-1431

鶯はやはり古枝が似合う。

15日

鶯の 春になるらし 春日山 霞たなぴく 夜目に見れども

10-1845
飽くなき抒情を託している。

16日 雲雀

うらうらに 照れる春日に 雲雀あがり 情―こころー悲しも 独りしおもへば

大伴家持 巻19-4292
春の日の孤独感、鬱憤であろうか。

17日

吉野なる 夏実の川の 川淀に鴨ぞ鳴くなる 山影にして

湯原王 巻3-375
夏実は菜摘でもある。

18日

呼子鳥

大和には 鳴きてか来らむ 呼子鳥 象―きさーの中山 呼びそ越ゆなる

高市黒人 巻1-70
象の小川の源流らしい。

19日

駘蕩の気の大宮人

春の野に 心伸べむと 思ふどち 来し今日の日は 暮れずもあにぬか

10-1882
貴族爛熟の風

20日 駘蕩の気の大宮人

春日野の 浅茅が上に 思ふどち あそぶこの日は 忘らえめやも

10-1880
風雅と美的生活か。

21日 駘蕩の気の大宮人

ももしきの 大宮人は 暇あれや 梅をかざして ここに集へる

10-1883
美意識の発露か。

22日

明日香村

さ檜の隈 檜の隈川の 瀬を早み 君が手取らば 言―ことー寄せむかも

7-4409
隈の少女の吐息が聞こえる。リズムが良くて吐息のようだ。

23日

采女の 袖吹きかへす 明日香風 都を遠み いたづらに吹く

志貴皇子 巻1-51
藤原宮に移り、浄御原宮の古都での回想の心情。

24日 春の歌垣―恋の断片 むらさきは 灰さすものそ 海石榴市―つばいちーの 八十−やそーのちまたに 逢える児や誰 

12-3101
椿の街路樹を植えた三輪山山麓の海石榴市。

25日 春の歌垣

たらちねの 母が呼ぶ名を 申せめど 路行く人を 誰と知りてか

12-3102
恋のかけあいの断片であろうか。

26日

弓月が嶽

たまかぎる 夕さり来れば 猟人―さつひとーの 弓月が嶽に 霞たなびく

10-1816
ぬばたまの恐ろしい夜には、川の音も一際高いのであろう。

27日

ひさかたの 天の香具山 この夕 霞たなびく 春立つらしも

10-1812
名歌である、うっすらと霞がたなびいて、どこか他の山と異なる趣が味わえる。

28日

呼子鳥

大和には 鳴きてか来らむ 呼子鳥 象―きさーの中山 呼びそ越ゆなる

高市黒人 巻1-70
象の小川の源流らしい。

29日 河内
かふち

山川も 依りて仕ふる 神―かむーながら たぎつ河内に 船出せすかも

柿本人麻呂 巻1-39
持統天皇の水流への出遊に、山の神も川の神も奉仕すると詠んでいる。

30日

立ちかはり 古き都と なりぬれば 道の芝草 長く生ひにけり

田辺福麻呂 巻6-1048
春も夏に近づいてきたようだ。