孫子     
国際社会は人間社会と同様に闘争の場である。日本は外交も戦略もどうしてかくも弱いのか。国境が無く島国の農耕民族でありムラ民族だからと言われる。戦術・戦略の研究は最重要問題と思われる。古代中国で生まれた「孫子」に再び挑む。平成17 81  徳永圀典

 1日 初めに1 孫子は兵法の代名詞、独特な戦略戦術体系と言われる。闘争の場での「人間の心と行動」を見据えて、勝負の哲学にまで深めたからと言われる。

哲学にまでアウフヘーベンされたから、孫子が現代経営管理から人の動かし方、世渡りにまで活用されている。

 2日

孫子の兵法の大きい特徴は、力づくの無理な勝ち方はしないことだという。相手の力を利用し、相手が自分の力で負けるように仕向ける、それが「策」だという。

「策」は人を騙すのではなく、勝つために自分と相手の力を有効に制御する智恵だという。その為に周到な調査・計画、万全の準備を重視するのも孫子の特徴。
 3日 孫子の構成

13篇に分類、冒頭に、わが「計」で基本を説く。

末尾に、「用間」をおき敵情を知るため、「彼を知り己を知れば、百戦殆−あやーうからず」で首尾一貫した。

 4日 13篇概説

@「始計篇」、戦う前になすべき事、心掛けるべき事。

A「作戦篇」、最小の犠牲で最大の効果をあげる作戦の基本。
 5日

B「謀攻篇」、戦わずに勝つための手段。

C「軍形篇」、戦いの様相。
 6日

D「兵勢篇」、「形」を「動」に転ずる事。

E「虚実篇」、こちらの「実」で相手の「虚」を衝く。
 7日

F「軍争篇」、戦闘の心得。

G「九変篇」、逆説的発想による戦い方。
 8日

H「行軍篇」、布陣の法と敵情察知の法。

I「地形篇」、地形に応じた戦闘、部下管理もある。
 9日

J「九地篇」、状況に応じた戦い方。

K「火攻篇」、火攻めの原則と方法。指導者論あり。
L「用間篇」、情報活動。

10日 始計篇

「兵は国の大事、死生の地、存亡の道、察せざるべからず。」

冒頭の著名な一句、兵は戦争、「戦争は国家の一大事であり、国民の存亡にかかわるものである。よくよく見極めなくてはならぬ。」
11日

組織でも然り、兵を挙げる時、孫子は統治の基本である「五事」を満たしているか確認せよという。

@「道」、民意を統一し得る基本方針の明記、A「天」、タイミングの問題の是非。B「地」、環境的条件。C「将」、指導者は妥当か。D「法」、組織、制度、運営に抜かりはないか。
12日

「主いずれが道あるか、将、いずれが能あるか、天地いずれが得たるか、法令いずれが行なわれるか、兵衆いずれが強きか、士いずれが練れたるか、賞罰いずれが明らかなるか、われ、これをもって勝負を知る。」

これは「七計」である。敵味方の戦力をソフト・ハード面で比較検討し予測する。@トップは、どちらが明確な方針を持つか。A指導部は、どちらが有能か。B時機、状況はどちらに有利か。C管理はどちらが行き届いているか。D第一線の働き手は、どちらがやる気があるか。E中間リーダーは、どちらが経験豊富か。F業績評価は、どちらが公平的確か。
13日

「道とは、民をして上と意を同じくし、これと死すべく、これと生くべくして、危うきを畏れざらしむるなり。」
統治の基本である、「五事」の第一がこの「道」である。

人民を君主と同じようなき持ちにさせ、危険を恐れず君主と生死を共にするようにさせる・・それが道である。この「道」は目標であろう。一体感と共通目標がなければ組織の力は発揮されない。指導者の大きな任務はここにある。
14日

「天とは、陰陽・寒暑・時制なり。」「五事」の第二は天である。

天は現代的にはタイミング、「天の時」かどうかである。これに続いて孫子は「地とは遠近・険易・広狭・死生なり」と言う。「地の利」のことであり、天の時と地の利は極めて重要な要素である。
15日

「将とは、智・信・仁・勇・厳なり。」

将に必要な五つの徳性、智「頭の働き」、信「信頼されること」仁「人間味」、勇「勇気」、厳「きびしさ」。
16日

「兵は詭道なり」

戦術とは相手を欺く方法である。―「兵は詐−さーを以って立つ」である。力づくでなく自然に心理作戦で相手をコントロールする事は科学である。
17日

「能なるもこれに不能を示せ」

できるのに、出来ないようなふりをせよ。人に妬まれず、それ以上の事を教えてくれる。孫子のいう「詭道」の一つである。

18日

「用うるもこれに用いざるを示せ」

使っても使わないふりをせよ。これも詭道の一つ、軽々しく本心を見せない、戦術は人に分からないから価値が出る。
19日

「近づくもこれに遠ざかることを示し、遠ざかるもこれに近づくことを示せ」

近づく為には遠ざかるようにみせかけ、遠ざかる為に近づくように見せかける。古来、合戦での戦術に多用。相手の心理の盲点を突く詭道である。

20日

「怒らせてこれを撓−みだーせ」

相手を怒らせてかき乱せである。興奮させバランスを失わせて勝つ方法。これは@相手の心の垣根を取り払う場合A相手の正体を見抜く時B相手を奮起させる場合等に活用できる。
21日

「卑−ひくーうしてこれを驕らせよ」

下手に出て相手を慢心させよ。「臥薪嘗胆」は越王句践の故事にある。縮みたければ先ず伸ばす、弱めたければ先ず強めてやることである。逆には、下手にでる奴は要注意、いい気になって慢心避けよ。
22日

「親ければこれを離せ」

敵の団結を離間させる。人間関係にこの離間策は問題を起こす。組織の中には意識して親しいもの同士の離間策を図る者がいる。
23日

「算多きは勝ち、算少なきは勝たず」

客観的な根拠で勝利を掴む、企画立案能力のことか。
24日 「兵勢篇」

「よく敵を動かすには、これに形すれば敵必ずこれに従う」

どうしても敵が動かなければならないような状況を作りだす。これは孫子の兵法の重要な柱、強大な武力で敵を制御するのは当然、力を使わないで制御するのが兵法の価値。
25日

直接、敵を動かすのではなく、知恵で敵が動くような仕掛けをする。「示形の術」という。形を示して誘いこむ。

人にやる気を起こさせるのも、強制でなく、やる気を起こす動機づけを与えることである。インセンティヴを与えると英語で言えば分かるご時世か。
26日 「虚実篇」

「よく敵をして自ら至らしむるには、これを利するなり」

敵が進んでこちらへやって来るようにさせるには、こちらに来れば利益があると思わせること。最も効果的なものが利益である。詐欺も欲の無い人は引っかからない。うまい仕掛け人は相手の欲の見定めが巧い。
27日

「よく敵人をして至るを得ざらしむるには、これを害するなり」

敵をこちらに来ないようにするには来たら損害を受けると思わせること。子供が嫌だと思う母親の言葉は「ダメ」と「早く」の由、禁令の多は逆効果。
28日 「作戦篇」

「兵は拙速を聞くも、いまだ巧の久しきを睹−みーざるなり。

兵は拙速を貴ぶである。長期戦になると兵力は損耗し士気も衰えるのが常。瞬間的な衝撃力で猛禽は獲物を襲う。限られた時間が緊張して力を発揮する。
29日

「兵久しくして国に利するは、未だこれあらざるなり」

戦争は国を疲弊させるのは歴史の原理。相手の力を減少させ又自己の力の増強させ得るかがポイント。

30日 「作戦篇」

「尽−ことごとーく用兵の害を知らざれば、尽く用兵の利をも知ること能わざるなり」

戦争による弊害を知り尽くさないと戦争効果はあげられない。人の使い方も相手の欠陥を知り尽くしたほうが長所を発揮させられる。メリットとデメリットは表裏関係。
追加 「九変篇」

「智者の慮は必ず利害を雑―まじーう。利を雑えて努め信なるべきなり。害を雑えて患解−かんとーくべくなり。

思慮の本当に深い人はプラスとマイナスをよく考える。マイナスだけでなくプラスを考えるから、やる事が間違いない。マイナスも考えるから禍を防げる。二面思考の大切さか。