住友家「家訓」十三ヶ条

日本には、古い家系が無数にある。最古は天皇家であり、次は神職の家系である。天皇も太古から現在も神に仕えておられる。天皇家は125代、天照大神の子孫である。神職家にも出雲大社の千家を筆頭に古い家系がある。両者とも神の前に日々、敬虔なお勤めをされて先祖の魂と遺訓を厳守しておられるから家が代々、連綿と続く。
同様に、民間でも古い家系は「家訓」という先祖の成功者の経験と失敗との歴史の中から作成されたものを家族が大切に守り続けている。

家制度は戦後消滅したが、秘かに祖先の遺訓を大切にしている家系も沢山ある。著名なものが近世では、財閥の創業家であろう。そこで、今回はその家訓を考えてみたい。
私が勤務した住友の住友家の別邸、京都は左京区鹿ヶ谷下宮ノ前町にある「
泉屋(せんおく)(はっ)古館(こかん)」に隣接する名園、(ゆう)(ほう)(えん)の庭園の奥には、お堂(芳泉堂)(祠堂祭)があり住友家と住友グループの物故者の慰霊が行われている。私も入社時には礼拝した。喜寿の現在でも、私ども住友グループの元幹部職員の部・店長以上には「住友老壮会」があり、年数回、東京とか大阪で会合して親睦を高め、深めている。こうして関連する者を大切にしているから繁栄を続けて行けるのであろう。

平成19年2月1日 徳永圀典
 

平成19年2月

 1日 序めに 古来、日本の家訓や遺訓には、住友家家訓の第三条にある如く「一時の機に投じてはならぬ」と言う一攫千金的な博打を戒めるものが多い。戦国大名の家訓にも同様なものがあった。
 2日

住友家は、江戸近世の第一期の豪商が跋扈し、一攫千金が流行った時代のすぐ後に出てきた商家たち以前、現在から4百年前より銅吹き事業(銅精錬)が創業事業である。資質が純粋商家の三井(呉服)とか鴻池(両替)と異なる。三菱は明治維新後、政府支援で発祥した財閥。

 3日

あの織田信長は一攫千金で桶狭間で大勝した以後は、頗る堅実な戦法に変化している。一攫千金で成功すると、自己の才に増長するのが人間の性である。それが大抵の場合は自己過信となり、再び一攫千金を頼みとして失敗に終わるのが通例である。

 4日

一攫千金は、動乱期に成功する云わば奇習であり、平時の戦法ではあるまい。功なり名を遂げた創業者たちは、これらの事を身に染みて感じていたからこそ、口やかましく戒め、それが家訓の始まりではないか。

 5日

そこで私の勤務した住友グループの家長家・住友家の家訓を日々披露することとした。これはオール住友の範たるものであるが、住友銀行では、支店長など管理者は「主管者」と呼ばれ経営者の位置付けであり支店長になったら、人事部長から「支配人の務め」という書物を与えられた。これは銀行業に特定したものであるが、この精神はいかなる時代でも生きるものと考えている。要望あらばご披露してもいい。

住友家家訓
 6日 第一条 主務の権限を越え、専断の所為(しょい)あるべからず。
 7日 第二条 職務に由り自己の利益を図るべからず。
 8日 第三条 一時の機に投じ、目前の利に(はし)り、危険の行為あるべからず。
 9日 第四条 職務上に係り許可を受けずして、他より金銭物品を受領し又は()(しゃく)すべからず
10日 第五条 職務上過誤、失策、怠慢、疎漏なきを要す。
11日 第六条 名誉を害し、信用を傷つくるの挙動(きょどう)あるべからず。
12日 第七条 私事に関する金銭の取引其の他証書類には、各店、各部の名柄(めいがら)を用うべからず。
13日 第八条 廉恥(れんち)を重んじ、貪汚(どんお)の所為あるべからず。
14日 第九条 自他共同して他人の毀誉(きよ)褒貶(ほうへん)に関し私議すべからず。
15日 第十条 機密の事を漏洩(ろうえい)すべからず。
16日 第十一条 (わが)営業は信用を重じ、確実を旨とし、以て一家の鞏固(きょうこ)隆盛(りゅうせい)を期す。
17日 第十二条 (わが)営業は時勢の変遷(へんせん)理財(りざい)得失(とくしつ)を計り弛緩(ちかん)興廃(こうはい)することあるべしと(いえど)も、(いやしくも)()()(はし)(けい)(しん)すべからず。
18日 第十三条 予州(よしゅう)別子(べっし)銅山の鉱業は(わが)一家累代(るいだい)財本(ざいほん)にして斯業(しぎょう)深長(しんちょう)は実に(わが)一家の盛衰に関す。宜しく旧来の事蹟に徹して将来の便益を計り、益々盛大ならしむべきものとす。以上
    住友家家訓は以上にて完了。
  参考

大倉財閥の創始者、大倉喜八郎 

翁の訓言は大倉財閥の創始者の言葉であり、家訓と考えていい実学的なもので、参考までに掲載することとする。
19日 翁の訓言 時は金なり
20日 油断するな。
21日 無駄をするな。
22日 天物(てんぶつ)暴殄(ぼうてん)するな。(荒らし滅ぼすこと)
23日 信用を重んずべし、信用なき人は首なき人と同様なりと知るべし。
24日 何事も魂を籠めて誠心誠意を以て働け。
25日 遊ぶも働くも月日は流る、奮闘に興味を持つ
26日 楽隠居の考えを止め、勇気を鼓し、家のため、国の為め努力するこそ人間の本分なり。
27日 他人が十時間働くなら、自分は十二時間働け、精神一倒何事不成の心持を以てすれば、成功必ず疑なし。
大倉財閥の創始者、大倉喜八郎の言葉は終わり。
28日 「信用」

に関する私の「所見」
日本では信用が何よりのポイントである。「信用を買う」のように信用には価格が隠されている。少々高くても信用が置けるものには対価を払う。その辺りが外国人にはわかり難い。なぜ日本では系列会社の高い部品を買って、我々が提供する安い部品を買わぬのかとなる。白人は狩猟民族であった為か、「その場限りの売買が商売」という意識が強い。農耕民族は、長い眼でみた信用という長いスパンの商売が分からないのである。