鳥取木鶏会 二月例会  徳永選 

佐藤一斎 言志後録    百八十四、理想的生活

 

 「(とり)鳴いて起き、人定(にんてい)にして(えん)(そく)す。門内粛然として、書声(しょせい)室に満つ。道は妻子に行われ、恩は(ぞう)(かく)に及ぶ。家に酒気無く、(くら)()(ぞく)有り。豊なれども(しゃ)に至らず。倹なれども(しょく)に至らず。俯仰愧(ふぎょうは)づる無く、唯だ(せい)(はく)を守る。各々其の分有り。是くの如きも亦足る。」

岫雲斎

 鶏鳴で起床し、人定(にんてい)即ち夜十時頃には就寝。屋敷内はきちんと整頓されており、読書の声が部屋に満ちている。主人の持つ道徳は家族にも守られ、恵みは下男下女((ぞう)(かく))にまで行き渡っている。家庭内に酒気はない、米蔵には余剰もある。物は豊かで不自由はないが贅沢ではない。倹約をしているが吝嗇(りんしょく)でもない。天を仰いで()じるものなく、()して大地に愧じるものもない。清廉潔白な生活を守って暮らしている。人間には夫々に持つ分限(ぶんげん)というものがある。このような生活であれば、「足る」と言うべきであろう。