.           老農の言葉  安岡正篤先生との対話

 先日、一人の老農に会った。彼はしみじみ私に述懐して、悶々の情を訴えるのであったが、私の方も深く感動した。彼は言う。

日本はすっかり虫ら食われて腐ってきた。人間がこれほど我侭になり、横着になり、若い者がなさけないほど自堕落になり、意気地がなくなり、犯罪も信ぜられぬほどひどく、嘘や恥知らずが平気になっては、もはや何ともしようがあるまい。選挙と云っても正気の沙汰ではない。私は農民のはしくれだが、こんな民主主義なんて話にならない。ソ連や中共のことなど何も知らぬが、どうも日本に対してすること、なすこと総て横着な悪党としか思えぬ。それに対して、日本側は意地も張りもないではないか。それどころか先方にひたすら取り入ってそのご機嫌を取っているように思われる。何だか、その中どうにも手のつけようのない内乱が起こるのではないかと言う気がする。大地震がやってくることは間違いない、とその道の専門家が断言しているそうだが、その時の惨状は想像も及ばない。
そこで、先生に伺いたいのたが、私はこう思っている、どうせ免れない災厄なら、私は人間同士がいがみ合う災厄・内乱より、私も逃れられないかも知れないが、天災・地震の方が日本人の為にまだましだと。人厄は恨みが残る。天災はどんなに酷くとも諦めがつくし、人間が反省し、戒慎する。それで私は、どうか地震で済ませて下さいと神様に祈っているんです。先生この私の考えは間違っていますか。